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何回かキスをされてからトイレを出た。
電車を待っている間も名前(男)に触れられた唇が熱くて気になった。
…俺唇荒れてたかな。リップ塗るんだった。
女子のようなことを考えた。名前(男)の唇って女のコみたいに柔らかいわけじゃないけどきちんと手入れされてる感じがある。

『赤也、すき。』

不意に昨日の夜の名前(男)の声が頭をよぎった。このタイミングで来るなよ。
電車が来て乗り込む時に少し手と手が触れた。昨日ずっと握られていたことを思い出してカッと顔が熱くなるのを感じた。

「赤也?大丈夫?」
「な、何が?!」
「いや、何か顔赤いし…、」
「だ、大丈夫!って言うかお前中華鍋買ったってことは中華料理作るんだよな?何作りたいの?」
「あー、別に決めてないけど、中華料理だけじゃなくて色々作れるし。何か食べたいものある?」
「肉!」
「料理名でお願い。」
「アハハ。」

咄嗟に話をそらした。
話しているうちに最寄り駅に着いたので降りて歩き出す。名前(男)のマンションは相変わらず駅から近い。

「何かうちに忘れ物とか無い?」
「多分ねーと思う。」
「そっか、まぁあったら明日届けるよ。……送っていこうか?」
「は?!いいよ!女子じゃねーんだし!」
「そう?じゃあ気をつけてね。」

名前(男)と別れてから俺は走った。なんだか意味わかんないくらい名前(男)を意識してる自分が怖かった。

「ヤベェ、かも。」

はっきりと自覚した。名前(男)を恋愛対象として意識しているってことを。
っていうか、とっとと気付けよ俺。普通男とキスするなんてキモイって思うだろ。嫌じゃなかったどころかむしろ好きだと思ったじゃねぇか。

明日名前(男)にちゃんと言おう。名前(男)は笑ってくれるだろうか。俺にしか見せないあの顔で笑うのだろうか。でも、名前(男)だって俺のこと好きって言ったんだから、喜ぶんじゃないかなぁとぼんやり考えた。


その日の夜、名前(男)から電話がかかってきた。
ちょうど風呂から出たところだった俺はボリュームダウンした髪を拭きながら電話に出た。

「名前(男)?どーした?」
「ん?ちょっと赤也に言いたいことがあってさ。」
「何?」
「好きだよ。」
「…な、何だよいきなり。」
「今ドキドキしてる?」
「…さぁな。」
「赤也がさ、俺のことそういう風に意識してくれてるなら嬉しいけど、…よく考えて欲しいんだ。」
「何をだよ。」
「俺は自分が男しか好きになれないって知ってるからいいけど、赤也はもともと女のコが好きなわけじゃん。…だから、もし俺と付き合ったり、キス以上のことをしてくれるっていうならよく考えて欲しいんだ。赤也に後悔して欲しくないから。」

ごめん、何か俺すっごい自意識過剰なこと言ってるな。じゃあ、おやすみ。

名前(男)はそれだけ言って電話を切った。

…よく考えろって、どういうことだ。
名前(男)は俺が名前(男)を意識してるってことに気付いてるってことだよな。その上で、よく考えろって言ったってことは。
男同士で付き合うのが楽じゃないことはわかる。だから名前(男)は本当にそれでいいのか考えろって言いたかったんじゃないだろうか。

…なんだよそれ。だったら俺に告白なんかするなよ。アプローチはかけてくるくせにこっちの気持ちがちょっと揺れたら考え直せって言ってるようなもんじゃねーか。それはちょっと勝手なんじゃないのか。

髪の毛は濡れたままだったけど何かイライラしたのでそのまま寝てしまった。…寝ようとして、昨日の夜名前(男)にされたことを思い出してまた恥ずかしくなった。

次の日、名前(男)は何事も無かったかのように接してきた。それが余計イラついた。
昼休みは名前(男)は相変わらず図書室に行ってしまったので仕方なく一人で不貞寝をしていると、

「赤也ー、ちょっといいかぁ?」

最近めっきりつるむことがなくなったツレの何人かに話しかけられた。

「ん?どーした?」
「今日M女学院の子達と合コンなんだけど、お前も来る?っていうか、苗字は来ない?」
「はぁ?どうしたいきなり。」
「いや聞けよ相棒。苗字はM女でもけっこう有名らしくって、もし苗字を合コンに連れったらミスM女のコ連れてきてくれるらしいんだよ!」
「ふーん…、ミスM女、ねぇ。」
「お前知らねーの?めっちゃ美人なんだって!あ、コレプリな。」

差し出された携帯に映っている女のコはなるほど美人だった。少し性格のきつそうな顔をしていたけれど全く気にならないほど整った顔をしていた。名前(男)と並んだらさぞかし絵になるだろう。

「コレだとよくわかんねーけど、噂によるとDカップだかEカップだからしいぜ。」
「マジで?」
「見たいだろ?だから苗字を説得して連れてきてくんねーか?」
「あー…、」

合コンなんて名前(男)は嫌がるに決まっている。でも俺が頼めばもしかしたら聞いてくれるかもしれない。名前(男)はなんだかんだで俺の言うことは聞いてくれるから。

「でもアイツすっげー無口だぜ?無表情だし。」
「そこがクールでいいらしい。女ってわっかんねーよな。」
「ふーん……。」

普段の俺なら絶対に断る。名前(男)が女のコが苦手なのを知っているのに合コンに行かせたりはしない。……でも、今日の俺は名前(男)に対してイライラしていたのでつい言ってしまった。

「じゃあ、名前(男)に聞いてくるわ。」

本気で名前(男)を合コンに連れていこうとは思ってない。でも、少しくらい困らせてやろうかと思った。


END







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