自己中心的

財前光/女主




side girl

財前の一番好きな人は財前自身だ。

そして、わたしの一番好きな人は財前だ。
たぶん異性で財前と一番仲が良いのは自分だという自覚はあったし、呼び出されたときは告白かと浮かれたりもした。
確かに告白だったのけど、その言葉はわたしの予想のはるか斜め上を行くものだった。

「あんな、俺、自分のこと好きなんスわ。」
「そ、そうやったん?」
「あ、自分ってお前って意味じゃなくて、俺って意味のな。」
「は?」
「やから、俺は俺が世界で一番大事なんです。んで2番目に先輩が好きや。」
「あ、ありがとう…?」

そんなこと告白されても正直どうしたらいいかわからない。何でわざわざそんなことをわたしに言ったのか。というか、財前はナルシストだったのか。

「んで、先輩は俺のこと好きやろ?」
「……まぁ。」
「なら付き合ういます?」
「…いや…、」
「何で?先輩は俺が好きで俺も先輩が2番目に好きなんやから、付き合うたらええやないですか。」

わたしはわたしを一番に好きになってくれる人と付き合いたかったから、断ろうとした。しかし、そう告げると財前は鼻で笑った。

「何言うてるんですか。人間誰しも一番大好きなのは自分に決まっとるやん。んでまだ俺等中学生なんやから、好きなものを順に並べたら自分の次は家族が来るはずやろ?せやけど俺は自分の次は先輩が来るって言っとるんやで?」

そう言われると確かに納得してしまう。わたしだって家族は大事だ。でも、もし嘘でも一番好きだと言って欲しかった。

「…じゃあ、付き合いましょう。」

それでも財前がわたしのことを好きなのは本当だろうし、正直に嬉しいと思ったから、付き合うことにした。


財前を見ていてわかったことがある。彼はナルシストなわけではない。ただ、リアリストなだけなのだ。
冷めているとは知っていた。でもここまで現実的だと面白味も何もない。
わたしが夢見がちなだけかもしれないけれど、せめて好きだとか愛してるだとか言って欲しかったし、永遠を感じさせるような言葉が欲しいと思った。

デートを何回かした。その合間にキスはした。抱きしめられたり、手をつないだり。たぶん人から見たら何の問題もなく円満に付き合っているようにしか見えないと思う。

それでも、わたしはこの人とずっと一緒に居なければならないのかと思うと、少しだけ憂鬱になった。何でだろう、好きな人と一緒にいることは幸せなことのはずなのに。

そんな折、なんとわたしは別の男の人に告白されてしまった。びっくりだ。

その人は顔を真っ赤にして、財前と付き合っていることは知っていたけどこれだけ伝えたかったから、と言って去っていった。ただそれだけだった。

「なぁ財前。」
「何ですか。」
「わたし達、ずっと一緒にいられるかな。」
「は?先輩よく考えてくださいよ。人間の気持ちはいつ変わるかわかんないでしょ。俺の気持ちも先輩の気持ちもいつか変わるかもしれんのやから、軽々しくいえるもんじゃないです。ちゅーか、まず永遠とかずっととか、俺そういう言葉大嫌いなんで。」

こんな調子なのだ。財前は。
だったら何でわたしと付き合ってるんだと聞きたくなった。
付き合っていることを後悔するわけではないけど、たとえば、前に告白してきてくれたあの人と付き合っていたらどうなっていたのかなぁとかそういうことばかり考えてしまうようになった。
財前と居るのは楽しい。でもわたしは自分の気持ちが急速に冷めていっていることに気づいた。

「最近、財前と何かあったん?」

謙也にそう尋ねられた。何かあったわけではない。ただわたしは大事にされたかった。

「…ちょっとな。」

曖昧に笑ってごまかした。謙也はそれ以上何も聞いてこなかった。

「先輩、」

帰り道で、不意に財前に呼ばれた。前はそれだけで心が高鳴ったのに、今はあまり何も感じない。

「なん?」
「…なんでもないです。」
「さよか。」

財前がこういう態度を取るのは何か聞いて欲しいことがあるとき。それをわかった上でわたしは何も聞かなかった。
ただ惰性で傍に居るだけなら、もうわたし達は一緒に居なくていいのかもしれない。そう思ってしまう。

わたし達、あとどれくらい一緒に居られるかな。

そんなことを思いながら、ゆっくり歩き続けた。


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