短編



愛しい人

 式場に着いてまず目に飛び込んで来たのは、一面に広がる黄色い菜の花だった。確か、新婦の名前の一部は菜の花から由来していた様な。
『菜の花畑にチャペルとは、あの新婦の性格に似合わず可愛らしいチョイスをしたものだ』
と、私は結構失礼なことを思い浮かべつつ、会場へと入っていった。

受付でご祝儀を渡して、そのまま受付嬢に新婦の控え室の場所を尋ねると
「新婦様のお控え室でしたら、廊下進みまして左手手前の3番目のお部屋にございます」
と、笑顔で応えられた。教えられた通りの場所へ行ってドアノブに手をかけようとしたら、中から談笑しているであろう声がした。どうやら先客が居るらしい。ノックをしたら、中から聞きなれた声がした。
「どうぞー」
ドアを開けると、自分の高校時代の同級生と後輩が囲んでいる中に、淡い黄色のウエディングドレスに身を包んだ陽菜が居た。高校生だった当時はスカートも化粧も嫌がっていたのに、今日のその顔には、きちんと化粧が施されている。
「・・・先輩、僕、そんなに変ですか」余りの激変に言葉を失って暫く見とれていた私に、陽菜はいかにも恐る恐ると言った風にして聞いてきた。
「いっいや、全然変じゃないよ。やっぱりドレスも化粧も似合ってるじゃん!」
私は、ハッと我に返って応えた。
「陽菜が、あれ程スカート系着るの嫌がってたから、着ていることの意外性に驚いているんだよ」
陽菜の隣に居た朱音(あやね)が、人差し指を立てて言った。
朱音は高校時代の同級生で、私が陽菜を紹介してから私と陽菜よりも仲良くなった仲である。
「何せ、千尋先輩が一番楽しみにしていましたもんね。陽菜のドレス姿」
と言うのは、陽菜の同級生の優衣(ゆい)である。優衣は、高校生だった当時に陽菜とずっとつるんでいた子で、常に朱音と3人で一緒に居ることが多かった。
「まあね。でも、結構綺麗になったじゃん。これは秀が見たらどんな反応をするのか見ものだね」
と、私がからかい混じりに言うと
『陽菜ぁ、入るぞ』
ノックと共に秀の声がした。
「どうぞ」
陽菜が返事をすると、ドアが開き白いタキシードに身を包んだ秀が入ってきた。
「・・・おぉ、陽菜綺麗になったな」
秀は、感嘆の声と共に感想を述べた。
「じゃあ、ご両人揃ったからアタシたちは失礼させてもらうかね」
「そうしますか。千尋先輩、先に会場へ行っていますね」
と、朱音と優衣が部屋を出て行くと、私は秀の方を向いた。
「陽菜を絶対に幸せにしてよ。離婚なんて、許さないからね。」
私ははっきりと秀に告げた。
「はい。判っていますよ。きっと、陽菜を幸せにしてみせます」
秀は、真っ直ぐ私の目を見て応えた。
「良し、じゃあ私も会場へ行くから。また後程」
私は、そう言うと部屋を後にした。

 挙式中の陽菜は、名の通り菜の花の様な笑みを浮かべていた。そして、秀も緊張していたのかぎこちない感じではあったが、しっかりと誓いの言葉を述べていた。二人とも、皆から祝福されて愛しい人と共に居られることの喜びを噛み締めているようだった。
「余り心配する必要なかったのかも」
私は、そんなことを思いながら二人の行く末に、幸福が待っていることを願っていた。


END




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