「ねえ、フレイちゃん?」
 何時も通り花の種を大量購入しようとすると、いつになく真剣な顔をしたコハクがそう言ってきた。
「どうしたの?」
「エっちゃんって大人っぽい?」
「うーん……」
 なかなか難しい質問のような気がした。エルミナータさんは黙って動かなければ魅力的な女性なのだろうけれど、残念ながらそうはいかない。むしろエルミナータさんの性格に慣れてからは、あの子供っぽさが魅力なのだと思うようになってきたし。それに、メグを見ているとエルフはみんな賑やかな性格をしているような気もするし……(トゥーナさんの知り合いのエルフもそうみたいだし)。
「決して大人びた人ではないかな……大人だけど」
 悩みに悩んだ末、私は苦笑しながらそう答えた。答えになっているかどうかは微妙なところ。
「でも、エっちゃんとあたしは扱いが違うの」
「お客さんの?」
「お客さんもそうなの」
 なんでだろうねぇ? と、コハクは眉間にしわを寄せて考える素振りを見せた。なんでだろうと聞かれても、エルミナータさんとコハクでは明らかに違うから仕方がないと思う。エルミナータさんは子供みたいな困った大人だけれど、コハクは無邪気な子供という表現が一番しっくりくる気がする。
「あたしもエっちゃんみたいな扱いがされたいの……」
「…………」
 悲しそうな顔で言われた。要するに『子供扱いしないでほしい』ってことであっていると思う。
「で、でも、コハクは長い間守り人として眠っていたから仕方ないと思うよ?」
「……それならせめて、中身だけでも大人になりたいの……。内面は外見に影響するって誰かが言ってたような気がするの……」
 だからセルちゃんが大きくなっても可愛く見えるの。と、悲しそうな顔のままコハクは言った。
 幼くて可愛いところがコハク最大の魅力だと思うけど、もしかしたら本人にとってはかなりのコンプレックスなのかもしれない。コハクの悲しそうな顔を見たら、なんとかその悩みを解消してあげたいと思ってしまった。



「……フレイ。これ、頼まれてたもの……」
「ありがとうございます!」
 数日後のこと。コハクの事について相談してみると、トゥーナさんが解決出来るかもしれないと言ってくれた。そして今日、トゥーナさんからコハクの悩みが解決出来るものを貰った。
「…………薬?」
 それは、小さな瓶に入った液体だった。色は透明で何も知らずにこれを見たら多分、ただの水だと思う。
 トゥーナさんは短く「そう」とだけ答えた。これを飲めばコハクの悩みが解決するという事でいいのだろうか? そんな風にちょっと困っていると、見かねたのかトゥーナさんが口を開き簡潔に説明をしてくれた。
「……それは性格反転薬。飲むだけで効果が表れる、らしい。……こっちが薬の効果を打ち消す薬。…………どっちも人体実験はしてあるけど気をつけてって……」
 なんか物騒な言葉が聞こえてきた気がした。誰かがこんな事のために犠牲になったと考えると、なんだか申し訳なくなってくる。手間をかけさせてしまった、これを作った人にも。
「……これを作った人は、いつもこんな事ばっかりやってるから……気にしないで」
「え? いつも?」
「シアレンスではいつものこと…………」
 少し楽しそうにトゥーナさんは微笑んだ。トゥーナさんは基本的に笑わないけれど、シアレンスの話になると少しだけ笑う。話を聞いているうちに、私は段々シアレンスに興味を持ち始めていた。いつか行ってみたいと思う。
「…………(……マリオンは『手っ取り早いのはその実験た……じゃなくて、その人がこっちにきて一本いってみる方法なんだけどね!』って言ってたけど……黙っておこう)」
「あれ? 急に黙ってどうかしましたか? トゥーナさん」
「別に……なんでもない」
 「それじゃあ」と、短く言うと、トゥーナさんは門の外を目指して歩き出した。取り残された私は、早速コハクのところへこの薬を届けることにした。



「と、いうわけで、持ってきたよ! コハク!!」
「おぉ! 楽しみなの!」
 蝶のような羽を広げてコハクは喜んだ。可愛いなぁ。アーサーさんではないけど、思わず抱きしめたくなってしまう。
「それじゃあ早速飲んでみるの!」
 コハクは躊躇うことなく、透明な薬を蜂蜜を飲むときの要領で飲み干した。飲み干してから「おいしくない……」と残念そうな顔をされた。そんな顔をされても私は困る。

「……あれ?」
「んー……なんともないねぇ」
 数分後、コハクに異変が起こるような気配はなかった。実験したとは言っていたけれど、もしかして失敗作なのだろうか?
「事件の匂いがするわ!」
「あ、エルミナータさん」
「あら? その薬は?」
「えっとそれは…………あっ」
 突然現れたエルミナータさんは、予備の性格反転薬を見つけると説明するよりも早く薬を飲んでしまった。相変わらず頭よりも体が動く人だ。
「…………」
「エルミナータさん……?」
 黙ってしまったエルミナータさんに恐る恐る声をかける。
「な、なんですか……? フ……フレイさん」
「!?」
 エルミナータさんの口から出たのは、エルミナータさんではあり得ないような言葉遣いだった。仕草も明らかにおかしい。エルミナータさんはもじもじと他人と会話することを恥ずかしがるような仕草をする人ではなかったはずだ。
「エっちゃんがおかしいの……こんなエっちゃんは嫌なの…………」
 コハクは泣きそうになっていた。そんなに嫌か、このエルミナータさん。……私も嫌だけれど。

「……もしかして、性格反転薬のせい?」
 だとしたらどうしてコハクにはきかなかったのだろうか。
 コハクをに視線をやってみる。純粋な目で見つめ返された。純粋。裏表がない、真っ直ぐな…………。
「裏表がない性格だからきかなかったのかも…………」
 私は無意識のうちに結論を呟いていた。もし、そうなのだとしたら、恐るべし純粋。恐るべしコハク。



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