「えっと……今、なんて言いましたか?」
カルディア一の変わり者と称されるミストさんは、いつも通り正午に僕の畑に来ると、突然思いも寄らぬ事を言い出した。 「私も、戦いたいと思うんです」 だから戦い方を教えてください。僕を見るなり彼女はそう言った。うん、突拍子もない。だから、カルディア一の変わり者と称されるのだろうけれど。
「冥さんや、私のお友達の話を聞いていて思ったんです。アースマイトの力に頼りっぱなしの時代は終わっていたんだなって。だから、ラグナさんに頼りっぱなしではなくて、私も戦おうと」 聞いた話によると、アースマイトが居るほかの町では、住民たちもそのアースマイトと一緒に戦っているらしい。それで、ミストさんの中で自分もやらなきゃという衝動に駆られたとか。 ついでに、何処かの地でエゼルバードがとうとう倒され、死んだという話も聞いた。別にもう、僕達には関係のない話になったのだけれど。
「戦い方……と言われても、僕は大体剣を振り回すかハンマーか斧を振り回すだけなんですけど……」 ミストさんの細腕で、そんな芸当が出来るとは思えない。ついでに、僕には人に何かを教えられるほどの技量がない。走り回って隙をついて攻撃するだけしか出来ないし。 「はい。私も、剣を使えるとは思ってないです」 それでもミストさんは笑顔なのだった。今日もミストさんの笑顔は素敵です。 「だから、魔法を使いたいと思いまして」 じゃーんと言いながらミストさんが取り出したのは、先端がカブの形になった金色の杖みたいなものだった。 「『金のカブの杖』だそうです。お友達のお土産で」 「スキルブックが無くても、それで魔法が使えるんですね……」 ゴールドを注ぎ込んだ僕の苦労は何だったのだろうとは言わない。時代は常に便利に進化していくものなのだから。 「えっと……魔法の使い方は?」 「一応、説明は聞いてきました。チャージで変わるみたいですよ」 えいっとミストさんが杖を降ると、星が先端のカブから出て僕を攻撃した。かなり痛い。 「あっ、ごめんなさい、ラグナさん……」 「あはは……大丈夫ですよ。じゃあ、とりあえずチャージで攻撃もしてみてくれますか?……この、木材を狙って」 今度は僕に攻撃が来ないように、持っていた木材を日本ほど縦に積んだ。ミストさんは頷くと、目を閉じて深呼吸をしながら杖に魔力を集中させた。 そして、目を開くと杖を振りながら言った。
「カブメテオ!!」
それと同時に、ドドドドド……と、沢山のカブが何処からか表れて木材を攻撃した。なんて技だ。多分、効果はダイコーンと同じ感じだと思う。 「どうですか?」 「多分、このままカーマイト洞窟に行っても大丈夫だと思いますよ。試しに行きますか?」 「……いえ、もう少し準備を整えてから行きたいです」 「それじゃあ、僕と手合わせしてみますか?」
そんな感じで、僕とミストさんの模擬練習が始まった。
・ ・ ・
「うわぁぁぁぁぁっ!?」 それから数分。ミストさんは思っていたよりも強敵だった。 近付けば最初の星と打撃がくるし、ある程度の距離を保っているとカブメテオがくる。しかもカブメテオはかなり強力で、二発ほど喰らってしまった僕はもうボロボロだった。 「うふふ……だんだん分かって来ました。行きますよ〜!!カブメテオ!!」 「うっ……ぐ…………」 後ろに飛んでギリギリで大量のカブを避ける。コツを掴めたからか、ミストさんは楽しそうに微笑んでいるけれど逆に怖い。 「こうすれば、確実に攻撃が当たりますよね?」 「なッ!?うああっ……」 カブが消えるのを待っていたら、カブの間からミストさんが飛び込んできた。不意をつかれた僕は、動くことができずに星と打撃をモロに喰らった。 あと一撃喰らえば、僕は倒れるだろう。ミストさんはその位強かった。僕に戦い方を教えてくれと言った割には、既に相当の手練れだった。 ……まあ、記憶を無くした僕に色々教えてくれたのは他でもないミストさんなのだから、当たり前と言えば当たり前なのだけれど。
「フィナーレです!カブメテオ!!」
嬉しそうにそう叫ぶミストさんの声を聞きながら、僕はカブに埋もれて記憶を失った。
・ ・ ・
「う……ん…………?」 目を開くと、ラピスさんが心配そうに僕の顔をのぞき込んでいた。 「大丈夫ですか?ミストさんに運ばれてきてびっくりしたんですよ。……全く、気をつけてくださいね」 苦笑しながらラピスさんはいつものように注意をした。此処にきてから、何度この病院に運ばれたか分からない。 僕はお礼と謝罪をしてから病院を出て行った。そして、カブ魔法を使う彼女の元へ急ぐのだった。
後日、いつも通りミストさんをストーキングしていたザッハに、ブロードソードでど突かれたのは言うまでもない。
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