「おかえリ、トゥーナ」 「……ただいま。これ、お土産…………」
セルフィアから帰ると、ガジが出迎えてくれた。もう時間も遅いのに、私の帰りをガジが待っていてくれた事を嬉しく思う。だから私は、ガジに真っ先にセルフィアで採れた鉱石を渡した。
「ン……?なンダ?これハ…………」 ガサガサと鉱石を漁るガジが変な声を出した。手には、何も持っていないように見えるけれど、何かを持っているようにも見える。私はそれが何なのかすぐに分かった。 「……それはインビジ石…………使うと見えなくなる」 シアレンスにはない珍しい鉱石だから、ガジが知るはずもない。ガジは見たこともない鉱石に目を輝かせていた。 「……そっちはグリッタ輝石。木から採れる。それは…………」 私はガジに一通り鉱石の説明をしてから自室に行った。
とはいえ、鉱石の全てを私が見つけたわけではない。インビジ石やグリッタ輝石なんかは、お城に住み込んでいる記憶喪失の子から貰った物だ。わざわざ採ってくれたらしい。 「…………あの子の記憶は戻るのかな……」 こっちにいる記憶喪失の記憶は戻ったけれど、あの子の記憶はまだ戻って居ない。あの子に何かしてあげたいなと思いながら、私は目を閉じた。
・ ・ ・
翌日。 私はセルフィアのお土産を配りに、シアレンス中を回ることにした。 「……シア」 「あら、トゥーナちゃん。お帰りなさい」 まずは隣の家の花屋。 「……これ、セルフィアのお土産」 「うふふ、ありがとうございます。綺麗なお花ですね……なんていうお花ですか?」 「セレッソ」 「へぇ〜、セレッソですか。大切に飾らせてもらいますね」 春の月が見頃のセレッソの小枝をシアに渡すと、喜んでそれを家に持ち帰ってくれた。 ああいう風に喜んで貰えると、頑張ってモフモフ達にどつかれながら、セレッソの枝を折ってきた甲斐があったものだ。……なんていうのは冗談だけれど。 「はろー……(トゥーナおかえり)」 次は誰の所へ行こうかと考えていると、カリンに話しかけられた。相変わらず眠そうにしている。 「……おはよう。……これ、お土産」 「ん……ありがと」 怠け者な鍛冶屋で売っていたペンダントをカリンに渡すと、嬉しそうな笑みを浮かべてくれたので安心した。あの鍛冶屋、怠け者だけれど腕は確からしい。 「……それじゃあ、私は」 「うんー……(お土産配り頑張って)」 カリンに別れを告げ、歩きながら手を振った。 次に目指すのは旅館。
「わー!トゥーナちゃんだ!!おかえりー!」 旅館の近くまで行くと、朝から凄く元気なペルシャに出迎えられた。 「……これ」 「わあーっ!イカさんだ!ありがとー!!」 別にセルフィアからのお土産じゃなくてもイカは何処にでもいるのだけれど、ペルシャへのお土産はこれしか思い浮かばなかった。喜んで貰えているから、いいんだろう。
「……そういえば」 私はふと、あのドジな親子が経営している旅館を思い出した。 「……セルフィアの旅館で、イカ風呂を考えてた……」 「ほんとー!?それならシアレンスでもやるといいよね!!」 「……ヘビースパイスのお風呂もあった」 「早速さくやちゃんに言って今日のお風呂にするね!!」 ヘビースパイスのお風呂がドジから生まれたものだと知る由もないペルシャは、ドタドタと旅館の中へ走って行った。元気そうで大変よろしい。 私もさくやに渡したい物があるため、ペルシャの後に続いて旅館の中へ入った。
「あのねー、さくやちゃん。セルフィアにはイカ風呂が……」 「やらへんからな」 「ヘビースパイスのお風呂も……」 「絶対やらへんからな」 「うわぁぁぁぁ!さくやちゃんのけちぃぃぃぃ!!」 入るなりこんな会話が聞こえた。……ごめん、ペルシャ。 「お、トゥーナ。いらっしゃい」 「……これ、セルフィアでの売り上げ」 「おおきに!」 まず売り上げを渡すと、さくやの目が一瞬にしてドルマークになった。素晴らしい反応速度だ。 「ん……エラい儲かってるんね」 「……やっぱりレアな素材が一番使うみたいで」 主に畑仕事から料理、鍛冶装飾調合までこなすお城の王子が。 買うときは在庫全てを買い占める勢いで買うのだから、儲かるはずである。……ところであの子の所持金はどうなっているのだろうか。
「……それから、これ」 次はお土産として、さくやにはアンブロシアの棘を渡した。アンブロシアからしか採れない貴重な素材の一つである。 「ん、おおきにな」 さくやはそれを笑顔で受け取った。
・ ・ ・
一通りシアレンスを回ると、私は最後の場所へ向かった。今、いるだろうか。 コンコン、と軽くノックをしてから大樹の家へ入る。
「あれっ?トゥーナ?」
目的の人が丁度二階から降りてきた。 「帰ってきてたんだね」 「……うん。昨日の夜」 マイスは相変わらず人懐っこい笑顔で私に話しかけてくる。 好きな人が笑いかけてくれるから、私はついつい頬が緩んでしまう。でも、この人が笑顔が似合うと言ってくれるのだから、頬が緩んでしまってもいいかなと思う。 「……これ、セルフィアの」 私はマイスに珍しい収集品を渡してから、セルフィアでの話をした。
「ああ、トゥーナ。はい、プレゼント」 帰り際に、何かを首にかけられた。それは星のペンダントだった。 「いいの?」 「勿論だよ。トゥーナに作ったんだから」 マイスはそう言ってニッと笑った。 「……ありがとう」
セルフィアからのお土産は、好きな人の笑顔と好きな人からのプレゼントという、最高のお返しに化けた。 1日会えなくなるのは寂しいけれど、こんな風にお土産が化けてくれるのなら悪くないかもしれないと思った。
おしまい。
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