冬の月24日。聖夜祭だ。
 また、例年通り会話をするだけの聖夜祭だ――と、思いながら目を開け体を起こすと、枕元のそれに気が付いた。
「……カブ……と、種?」
 真っ白な形のいいカブと、三つのカブの種。何故こんなところにあるのだろうか。
「カブの種、サクラカブの種、金のカブの種……いやいやいやいや!?」
 種を確認しながら途中でおかしいことに気が付いた。なんだサクラカブって。なんだ金のカブって。そんなもの見たことも聞いたこともない。他の町にはあるのだろうか?
 しかも説明書を読んでみると、サクラカブが春に育つのはいいが、金のカブは冬と書いてある。冬に作物なんか育つのか? 毎年毎年、この時期はどう頑張っても冬に作物を育てることは出来なかったのだけれど。
 なんて、一人で考えていても仕方ない。僕一人では結論なんて出ないだろう。半ば諦めのようにそう考えると、僕は恐らく犯人であろう(と言ったら失礼だろうが)ミストさんに話を訊くことにした。



 自分の畑を出て町にいくと僕はまずこけた。
 比喩でもなんでもなく、本当に純粋な物理的にこけた。まさか足元にカブが転がっているなんて思ってもみなかったのだ。足を挫いてしまわなかったのが不幸中の幸いだろう。
「落としたのはロゼッタかな…………?」
 なんて言いながらカブを拾いつつ体を起こすと、奇妙なものが視界に飛び込んできた。
「……カブ、ダルマ?」
 真っ白な雪のなかに紛れた大きなカブ。しかもそれがもうひとつ上におかれて、ご丁寧に上のカブには顔まであった。そう、本来ならば雪で作るはずのもの。それがいたるところにオブジェとして設置されていた。正直、とても怖い。
「あら、ラグナさん。どうですか? 今年はいつもと違う楽しみ方をしてもらおうと思って、異国のクリスマスというものを取り入れてみたんですよ」――と、カブダルマに恐怖する僕の背後からそんな声が聞こえた。やっぱりあなたが犯人ですか。という意を込めつつ僕は後ろを振り返る。「ミストさ――」
 『ん』まで言うことはできず、僕はそこで思わず吹き出してしまった。後ろにいた彼女は声が彼女のものでも、胴体が彼女のものでも、顔が彼女のものではなかった。
 というかカブだった。

「いやいやいやいや……いくらカブが好きだからって流石にそれは無いでしょうミストさん。というか、その頭でかすぎますって」
 僕の力の抜けた言葉にミストさんは「そうですか?」といつも通りの口調でそう言って、あっさりと頭を外した。すると、当然だがミストさんの顔が現れる。なんだか知らないけれど、それだけで安心した。
「ふふふ、素敵ですよね、これ。貰い物なんですが、『カブ頭』というアクセサリーだそうですよ。カブの酢漬けを渡されたときは思わず投げ返してしまいましたが……代わりにこれをいただけたのでよしとします」
 上機嫌にミストさんは言う。いや、本当に嬉しそうだ。カブの酢漬けの恨みを無かったことにするぐらいなのだし。
「そうそう、クリスマスというのは、朝起きたら枕元にプレゼントが置いてあるっていうのが主な行事みたいなんです。だから飾りつけはおまけですね」
 プレゼント、いかがでしたか? とミストさんはニッコニコ笑いながら言う。その笑みには裏が隠されているであろうことを僕は知っている。ミストさんは記憶喪失な上に空腹で倒れた人間にクワとジョウロを『似合いそうだから』という理由で渡す人間だ。油断してはいけない。
「知らなかった、ということで今年はプレゼント、私はいりません――ですが」
 ラグナさん。とミストさんは僕の目をまっすぐに見て言う。そして、目をそらすことを許さないぐらい真っ直ぐな瞳で続きを言う。
「来年のクリスマスには三種類のカブ、間に合いますよね?」
「…………」
「あわよくば出荷してこの町にも流通させましょう」
「…………」
 子供みたいに目を輝かせるミストさんに、勿論僕はなにも言えなかった。



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -