セルフィアにはからかい甲斐のある奴が多い。中でもディラスは群を抜いている……と、俺は思っている。だからいくら怒られてもやめられないんだよな。
 ……で、その結果がこれだ。

 俺はディラスに誘われてイドラの洞窟で釣りをしていた。勿論、ディラスもな。レストはいない。あいつは忙しそうだったし。
 釣りをしてると、ディラスが途中で席をたった。釣竿を置いて。
 俺はもう、これはチャンスだと思ったわけだ。あとのことなんか考えるよりも早く、俺はディラスの釣竿を持って、釣りポイントから少し離れたエリアに隠れた。少し離れたエリアっていっても、帰るときには必ず通るであろう場所。釣竿と俺が突然消えて狼狽えるディラスを少し楽しんでから、飛び出して脅かしてやろうっていう算段だ。ははは、ディラスのリアクションを想像しただけで楽しくなる。
「なのにどうしてアイツが来ないんだろうな」
 俺が隠れてから大分時間がたったというのに、ここを通るのはモンスターしかいない。何故かディラスはいっこうにここを通らない。段々日が暮れてきてしまった。そろそろ帰らなければ心配をかけてしまうだろう。下手したらセルザが動く。
「……仕方ない、探してやるか」
 そう呟いて立ち上がる。すると一斉に近くにいたモンスターが襲いかかってくるが、気にしない。レストに散々つれ回されたお陰で、ここらのモンスター相手なら目をつぶってでもいける。
「はは、それは過大評価だな」
 自分の釣竿を武器に歩いていると、段々楽しくなってきた。たまにレストが農具で戦っていた理由がなんとなく分かった気がする。

 ディラスを見つけられないまま、俺はイドラの洞窟をだいたい一回りしてしまった。困った、アイツはもう諦めて帰ったのだろうか。それなら俺も帰ってしまえばいいが、帰ってしまうとそうでない場合が困る。悪戯で誰かをここに残していくというのはなんとなく後味が悪い。楽しくない悪戯はしない主義だ。
 ……なんて考えていたら、最初にいた釣りポイントに戻ってきてしまった。残念ながらディラスはいない。水の神殿なら安心してディラスを置いて帰るんだけどな。彼処はアイツが守り人としていたところらしいし。
 仕方なく、イドラの洞窟をもう一周することにする。これで見つからなかったら……どうしようか。一度セルフィアに帰るか。
 そうやってうろうろしていると、向こう側のエリアにディラスの後ろ姿を見た。
「あ、おい、ディラス!」
 呼び掛けるがディラスは気付かない。残念なことに、こっち側からではあっち側にいけない。回り道をしなければならない。
「クソ……ッ」
 何処かへ行ってしまうディラスの背中を、俺は走って追いかけることにした。

 見失った。
 そして出口まで来てしまった。
 結論はそれだけだった。あれからもう一度もディラスを見ていないとなると、アイツはもうイドラの洞窟を出てしまった可能性が高い。よく考えれば、ディラスが歩いていった方向は出口の方だった。
 イドラの洞窟を出て外を探すべきだろうか。セルフィアへ向かって歩いて見つかればいいが、それで見つからなかったらどうすべきだろうか。イドラの洞窟から外は随分と範囲が広い。
 なんて、考えている時間が勿体無い。さっさと探しに行く方が確実だ。こうしている間にもディラスは移動を続けているだろうから。
 悪戯を仕掛けたことを悔やみつつ、俺は洞窟の外へ踏み出した。そこで、誰かに後ろから肩を掴まれた。
「は?」
「『は?』じゃねーよ。どこへ行くんだよ、おい」
 それは散々探し回ったディラスだった。



「はははははははっ! ダッセー!! ……ってイタイイタイイタイイタイッ! ワ、悪かっタって」
 ディラスの話を聞いて爆笑するダグの頬を思い切りつねってやるとようやく黙った。全く、ディラスも口が軽い。こういうときばっかりダグと仲がいい。
「ふふ、レオンさんでもオロオロすることがあるんですね」
「う、うるさいな――」
「おや、顔が赤いですよ?」
「ぐっ……」
 こういうときのアーサーは苦手だ。人の痛いところをどすどすと容赦なくつついてくる。言えば言うほど言い返されるから、結局こちらが負けることになる。

 ディラスは途中から俺の姿を見つけて、しばらく観ていたらしい。ディラスのリアクションを楽しむどころか、逆に俺のリアクションを楽しまれていたということだ。ダグに笑われてもまあ、仕方ない。俺もダグの立場だったらそうしているところだ。……まあ、黙って笑われ続けるわけがないが。
「――人を呪わば穴二つ、という言葉があります。レオンさんもこれからは少し悪戯を控えてみたらどうですか?」
 楽しげに、アーサーは言った。俺はそれに即答したが、アーサーは俺がそう言うのをわかっていたように見える。とりあえず、俺のことが可愛いなんて気持ち悪いことを言い出す前に退散するとしよう。

 ――まったく。
 今回はひどい目に遭った。次からはセルザとレストに仕掛けることにしよう。



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