このところよく雨が降る。洞窟にも畑を持つ身としては、実にありがたい話だ。農作業だけで今までに何回倒れたのか分からない。ラピスさんにはきっと呆れられていることだろう。
「こんにちは、ラグナさん。雨の日なので遊びに来ちゃいました」
 洞窟の畑を一通り見て回って家に帰ると、いつも通りミストさんが家のなかにいた。最初は勝手に家のなかに入られて驚いたけれど、今では馴れたものだ。むしろいない方が不安になってしまう。
「畑仕事、お疲れ様です。ラグナさんもすっかり農家のオジサンですね」
 誰が農家のオジサンだ。にっこりと笑って言うミストさんに、心のなかで突っ込みを入れる。
「お疲れかと思って今日はトクベツに差し入れを持ってきちゃいました。はい、どうぞ」
「……あの、これは……」
「はい、カブの種です。これで美味しいカブを作って美味しくいただいてくださいね」
 純度百パーセントの笑顔でそんなことを言われたらなにも言えなくなってしまう。これが全て天然で言っているのだから、末恐ろしい人だと思う。この人と結婚したら楽しそうだろうな……いろんな意味で。
「でも大丈夫ですよ。今日も雨で仕事が少ないですから」
 カブの種をリュックにしまったあとで、窓の外を指差して言った。外では雨に打たれた作物たちが生き生きとしている。
「雨は天からの恵みですからね」
 その様子を見てミストさんは凄くいい笑顔を見せてくれた。なんだかんだ言って、畑が好きな人だ。



「……いや、確かに恵みの雨とは言ったけど」
 次の日の朝、僕は窓の外を見て呟いた。自然と右手で頭をおさえてしまう。ああ、頭痛がしそうだ。
「……流石にこんな激しいのはいらない」
 窓の外は大荒れ。なんと台風が上陸していた。連日の雨はその前兆だったのかもしれない。誰か台風が近付いてるとかそういう情報をくれてもいいのに。
 外で昨日は生き生きとしていた作物たちが次々と飛ばされ岩や切り株に押し潰されていく。ああ、無情なり。……ところでどうして切り株が飛んでくるのだろうか。

 台風の日は危なくて外に出ることができない。前に一度だけうっかりテレポートを使って外にでてしまったことがあったけれど、あのときは散々な目に遭った。町は勿論外に誰もいなくてゴーストタウン状態で、扉はしっかり開かないようになっていた。あの日は家のなかに入るのに苦労したっけ。
 仕方ない。今日は1日引きこもりだ。
 そうと決まれば、僕は明日以降に使う復旧資金のために料理を始めることにした。新しく買う作物の種がどのくらいになるか分からないからだ。
 カレー、コロッケ、味噌田楽、ケーキ、刺身、ミックスジュース……。冷蔵庫のなかにあった食材を使って片っ端から色々と作っていく。RPが大分少なくなってきたところで、僕は作業をとめた。
「あら、随分たくさん作りましたね」
「スキルアップも兼ねてますから……ってミストさん!?」
 時計を見ると、いつもミストさんが来る時間だった。しかし何故ここにいるんだこの人は。外の天気がどうなってると思っているんだ。
「雨の日なので遊びに来ちゃいました」
「雨の日ってレベルじゃないだろ!」
「でも退屈でしたから」
「いやいやいやいや……」
 思わず素で突っ込んでしまう。
 よく見ると、ミストさんは全く濡れていなかった。濡れずにここまであの天気の中をこの人はどうやって来たのだろうか……。謎が多すぎる人だ。いろんな意味で頭が痛い。
「昨日の雨は恵みの雨でしたけれど、流石に今日はそうとは言えませんね」
 なんて、ミストさんはいつも通り変わらない笑顔で呑気に言う。「畑の整備頑張ってください」とあとから付け足され、ついでにカブの種を渡された。もう突っ込む気力はない。

 やることもなくなってしまったので、そのあとはミストさんが帰るまでずっと雑談をしていた。途中、カブがほしそうな顔をされたからカブの酢漬けを出してみたら投げて返されたのは別の話。



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