俺は二股をかけている。
男として最低だろう。
しかし、俺は二股をかけている。

俺は彼女達とは少し離れたところで暮らしている。
…………いや、暮らしていると言うのだろうか?
放浪していると言うのか……いやいや、あてがない訳ではないのだから放浪は違うか。そう思うとなんと言えばいいのか分からない。

何故なら、俺は電気だからだ。
発電所で作られ、色々な電線を経由し各家庭や企業で消費される。
消費されたと思った瞬間にまた発電所で作られているというシステムはよく分からないが……とにかく、俺はそういう日々を送っていた。

また今日も彼女達の元へ、俺は通う。
まずは電柱ちゃんのところだ。
多分人間共や他の生物から見たら電柱はどれも一緒に見えるだろう。
しかし違うのだ。電柱一つ一つに個性はある。

「来てくれたのね。嬉しいわ」
電線を使ってやってきた俺を、彼女は優しく迎え入れた。俺はこの笑顔を見ると、心が安らぐ。
しかし俺は何時までもその場に止まることは出来ない。悲しい現実だ。

「悪い……消費されたらまた来るから」

少し寂しそうな顔をする彼女に俺はそう言って別れた。


もう1人の俺の彼女は、とある家のコンセントちゃんだ。
電柱ちゃんと長く居られないのは惜しいが、そこかわりコンセントちゃんに会えるのは嬉しい。彼女達のどちらか片方を選べと言われて選ぶのは難しいが、彼女達の為なら俺は消えてしまってもいいとすら思えてしまう。

コンセントちゃんの家が見えてきた。もうすぐコンセントちゃんに会える。


会えると思っていたのに、俺はコンセントちゃんには会えなかった。
家の中には入れたのだが、コンセントちゃんには何も刺さっておらず、俺が行く必要がなかったのだ。
……まあいい、一目でもコンセントちゃんを見ることが出来たのだし。次、発電所からここに来たときに会えるだろう。

俺はそう思いながらこの家で消費され、発電所に戻った。


本日二週目。
また電柱ちゃんの元へ向かい、名残惜しく思いながら別れた。そしてコンセントちゃんの家へ向かう。
しかしまたコンセントちゃんに会うことは叶わず、最終的にこの日はコンセントちゃんに会えなかった。


次の日も、また次の日も、コンセントちゃんに会うことは出来なかった。それどころか、コンセントちゃんの家に入ることすら出来なくなってしまった。一体何があったのだろうか?
いやな予感が脳裏をよぎる。

その嫌な予感は、的中することになってしまった。

コンセントちゃんに会えなくなってから五日目。
コンセントちゃんの家の取り壊し作業が始まった。
コンセントちゃんは当然この家の壁に居るわけで、壁と一緒に壊される。

こうして、俺の彼女の片割れがこの日、死んだ。


俺は暗い気持ちのまま消費され、電柱ちゃんの元へまた向かっていった。
心配はされたが、「仲の良かった奴に会えなくなった」と言っておくことにした。もう1人の彼女が死んだなんて事が言える筈もない。
彼女は優しく俺を慰めてくれて、何故か胸がチクリと痛んだ。


それから幾日が過ぎただろうか。
酷い台風が過ぎ去った翌日である。
今度は電柱ちゃんの元へいけなくなった。

台風によって電線が切れてしまい、さらに電柱ちゃんが傾いてしまったのだ。
傾いた電柱ちゃんは危ないという理由で撤去されるらしく、新たな電柱と切れた電線を繋ぐらしい。

つまり俺は、俺達は、さようならも言えないまま永遠に別れることになってしまった。


これは、俺が二股をかけていたことに対する天罰なのかもしれない。
とにかく俺の胸には、ぽっかりと大きな穴があいてしまった…………

fin