コンビニにプラッと立ち寄ってみたら、欠陥がレジのアルバイトをしていた。そんで「ほわぁっ!?」とか奇声を上げてしまった。 まあ、店内に入って聞いた第一声が、よく知ったやる気のかけらもない棒読みの「……らっしゃーませー」だったら奇声を上げてもしかたないかなと思う。
「おーい、バイトのにーちゃんよー」
 だが俺だけ変な声を上げるのは欠陥に負けたような気がして悔しいから、仕返しのためにレジへつかつかと歩み寄る。そしてダルがらみ。案の定スルーされた。心が折れそうだ。欠陥の目も心が折れていそうなくらい虚ろだ。こいつは元々こんなんだけど。ハイライトが入りまくった目をしたこいつなんて見たくもないけど。
 そんなことはさておいてだ。客の相手を全くしてくれない接客態度のなってない新人アルバイト店員はほうっておいて、俺はコンビニに来た目的を果たすことにする。……つっても、大半の目的は涼むことなんだけどな。でもそんなことをしたらレジに突っ立ってる死んだ魚の目をしたやつに何をされるかわかったもんじゃねえから、物色をしてみる。丁度腹が減ってきたことだし、夜食に何か買おう。



「……コンポタ味のアイスなんて誰が食うんだよ」
 アイスコーナーを物色して目についたコンポタ味のアイス……を、スルーして隣のオーソドックスなソーダ味を手に取る。安くてうまい庶民の味方が俺は大好きだ。
 さて、嫌だけどレジへ行くことにしよう。じゃなきゃ手に持った三つの商品は食えない。生憎レジには何が楽しくてそこに突っ立ってるのかわからない欠陥製品しかいないが、まあ気にすることもあるまい。ちゃんと仕事はしてくれるはずだ。
「…………」
「…………」
「…………」
「てめぇさ」
 無言で続く作業にいい加減耐え切れなくなって話しかけた。くそ、負けた気分だ。
「なんだよ」
「レジなんだからもっと愛想ってものがあるだろ?」
「僕にそんなものを求めるのか」
「……かはは、それは傑作だったな」
 487円、と言われて素直に百円玉を五枚カウンターに置く。ついでに一円玉を二枚ほどおいてやった。計算しやすくしてやるとは、なんて俺は優しい奴なんだろう。
 欠陥はカウンターに置かれたコインに目もくれずにレジ袋を取り出す。そして、俺が買った商品を適当に袋の中に入れようとしてそこで思いとどまった。なんだ、なんで袋詰めしないんだ。
 少し悩んでから欠陥は衝撃の言葉を口にした。
「こちら、温めますか?」
 両手に持って丁寧に見せられたのは冷やし中華。……おかしいな、俺の記憶の中では冷やし中華は温めるものではなかったと思っていたが。まさか京都だけ違うのか? そんな馬鹿な。
「……冗談、だよな?」
「本気なわけないだろ」
 無表情でそう言って冷やし中華を袋の中に入れる欠陥。よかった、冷やし中華を温め中華にされなくて。そんなもん食べるくらいなら、最初からラーメンを買うつもりだ。まずなんだよ、温め中華って。
「……じゃ、こちらは温めますか?」
「ねーよ!」
 続いて見せられたのはソーダ味のアイス。これは即座に拒否した。
「まあそう遠慮なさらずに」
「いや、どう考えても遠慮じゃねえよ。アイスあっためるバカがどこにいるんだよ。
冷たいから『アイス』なんだろ。温かかったら『ホット』とかもっと適当に温かそうな名前付いてるだろ」
「君って甘いものがからんだら本気になるよね」
 レジ袋の中にアイスを投げ入れる欠陥。おい、仮にも『お客様』が買おうとしている『商品』だぞ。まったく、誰だよ、こんな接客態度が赤点の奴を雇ったのは。
「じゃあ最後にこちらは……」
「あっためねーよ」
 最後は欠陥の手からレモンティーを強引に奪い取った。金を払っているんだから強盗にはなるまい。それからレジ袋もとってレモンティーをそこに投下。右手を欠陥に突き出してお釣りを請求した(お釣りはふつうに渡された。金に関してはしっかりしている奴だ)。
「……欠陥、お前結局何がしたかったんだ?」
 レジの前から立ち去る直前に俺は疑問に思ったことをぶつけてみた。素直に仕事をさっさと終わらせればいいものを、こいつはそれをわざわざ延長させている。欠陥はそれに対し顔色一つ変えず答えた。
「バイト飽きた」
「…………」
 じゃあやめろよ。と思ったが口にはしなかった。多分何らかの理由があってバイトを辞められないんだ。そう信じて。

 俺が店を出る直前に、またやる気のない棒読みの声で「……っざっしたー」と聞こえてきた。聞こえなかったふりをして俺はコンビニのドアを閉める。そこで俺は初めてドアの内側に『またのお越しをおまちしております』と書かれているのを知った。

 二度とこんなコンビニくるかっつーの。