※これはゆめにっきのパロみたいなものです。

 夢の中を、今日も僕は歩き続ける。何かを探していた気がするけれど、それが何だったのか忘れてしまった。もう随分と誰かと会話をしていない。喋り方すら忘れてしまったかもしれない。
「……流石にそれはないか」
 声は裏返ることなく正常に吐き出された。受け止める人なんているはずもない。
 探し物は忘れたけれど、この世界で僕が何をするべきなのかはしっかりと覚えている。……今まで、僕が現実世界で関わった人達を集めることだ。
 それをして、一体何になるのかは分からない。どうしてそんなことをしなければならないのかも、自分の夢の中なのに思い通りに行かない理由も、僕は全て知らない。……もしかしたら、僕の『探し物』はそれらの答えなのかもしれない。戯言だけど。

「……見つけた」
 夢の中のかくれんぼ。見つけたのは、ただひたすら僕を見つめる萌太君。彼も、僕が今まで見つけてきた人達と同様に口を開くことはない。僕はもう彼に『いー兄』と呼ばれることはないのだ。
「智恵ちゃん、巫女子ちゃん、玉藻ちゃん、子荻ちゃん、理澄ちゃん、姫ちゃん、出夢君、萌太君……」
 これで八人。彼らはみんな不思議な色をした球体となって僕の手のひらの上にいる。残りはだれたろうか? それとも、これで終わりなのだろうか。
 答えはまだ見つかっていない。

 大分見慣れた景色のなかを訳もなくさ迷う。真っ青な場所、真っ赤な場所、橙の場所、骨董品に埋め尽くされた場所、研究所、十三段までしかない階段……。この世界には、僕以外に動くものがない。ゲームのマップみたいな世界だ。それだけ僕の心が薄っぺらだということだろうか。夢は心理状況に大きく左右されるから。
「せめて鏡でもあればよかったのに」
 誰にも届かない戯言を吐く。声はすぐに溶けて消えた。
 歩くのにも飽きてきたから、八つの球体を眺めることにした。相変わらず変な色をして、独特な光を放ち続けている。球体の中をよく見れば、そこに人がいることが分かる。
「……そろそろ話をまとめようか。僕はもう飽きたよ」
 届かないとわかっていながら球体に話し掛けてみた。案の定なにもなかった。
 地べたにあぐらをかいて、自分の前に八つの球体を転がらないようにそっと置く。勿論何も起こらない。一体これは何を意味するのだろうか。……いや、そうじゃない。一体、
「一体君たちは、僕に何を言いたいんだろうね……」
 もう二度と会えない人達を夢の中で集める。滑稽な話だ。あいつなら傑作だと言っただろう。これは正しく戯言ではなく傑作だ。
「……せめて、僕はまだ誰かを探すべきなのかどうかくらい教えてくれよ……」
 思わず弱音がこぼれた。この世界は僕の夢であって、僕の夢ではない。勝手にこの世界から出ることは出来ない。まるで牢獄だ。僕が関わったばっかりに死んでしまった人を集めて、その罪を償うまで閉じ込められる。ああ、これが僕が求めていた答えなのだろうか。スッキリした感じはある。流石に分からないことがあるくらいなら死んだ方がいいなんて極端な性格はしていないけれど、でも気持ち悪さはなくなった。

「――やっと答えが見つかったか。遅かったな、欠陥」

 背後から、よく知った鏡の声がした。それから「かはは」という笑い声が聞こえて、僕はたまらず振り返った。
「んじゃ、行くぞ欠陥。お別れはすんだだろ?」
 強引に手を引かれて立ち上がる。少し歩いてから、球体の彼らを置いてきてしまったことを思い出して振り替える。
 しかし、そこに球体は無かった。代わりに八人が笑顔でそこに立っていて手を振っていた。もう、戻ってくるなと言わんばかりに。
 何を言っているのかは全く分からないけれど、萌太君が口を動かしながら僕を指差した。いや、多分僕ではなく僕の前方だ。そっちを見ろということだろうか。その方角に顔を向けてみる。
 瞬間、僕は眩い光に包まれて身体が融けていくのを感じた。


 次に目を覚ましたときには僕はいつもの骨董アパートにいた。夢の中から帰ってきた……ということで合っているのだろうか。
 結局、あの夢が何を意味していたのかは分からない。僕が心のどこかで彼らともう一度会うことを望んでいたからああなったのだろうか。夢は願望の表れというから。
「なんて、戯言だけどね」