「パズルってさ、世界の全てを表していると思うんだよね」

 口元は笑っているが、目は全く笑っていない、むしろ死んだようにすら見える、不気味な不敵な顔で、私の目の前にいる彼女は言った。私は決して彼女と仲が良いわけでは無い。したがって、パズルが世界を表しているなんて持論を聞く理由が無い。聞きたくもない。そもそも彼女と雑談する気が無い。
 そんな私の心境を、目の前の彼女が知るわけもなく、私が彼女の話を真面目に聞こうとしていないのと同じように、彼女も私の気持ちを全く考えず、どや顔で持論を語る。
「例えば一つの事件が起きたとして、それが如何に複雑なものであっても、物事は一つのピースでしか無いと思うんだよね。その出来事があったから関連した出来事が起こるし、どんなに些細なものでも、全く似たようなことでも、一つ一つのピースになる」
 言っていることは、よく有りがちな何の捻りもないものだと思う。恐らく、何か言いたいことがあって、それを彩るための準備にこんな話をしているのだろうけれど、全く掴めない。一体彼女は何を言いたいのか。何がしたいのか。今、何を考えているのか。
 目の前の彼女は、私の反応など求めていないらしく、どや顔で持論を語るのを止めない。聞く気になれなくて意識を他のところへ持って行くと、たちまち彼女が何を言っているのか分からなくなった。語られる持論は他の雑音と共に風と溶けてゆく。
 さて、それでは思考を再開しよう。私は、今どうしてこんな事になってしまったのか、深く考える必要がある。たとえ、それが答えのないものだとしても、私は頭を捻らなければならない。

 どうして。

「人生においても同じでさ、小学校を卒業したとか、高校受験に失敗して不合格だったとか、そういう思い出も一つのピースだよね」
 一歩。彼女は私へ近付いた。私は動けない。後ずさることも、彼女へ近付くことも出来ない。……もっとも、近付くことが出来たとしてもしないのだけれど。
 せっかく外した筈の意識が再び彼女に集中してしまった。これで私は益々こいつから逃げられなくなる。物理的にも、心理的にも。
「だから、人生っていうのは一枚の絵と同じなんだよ。生まれてから死ぬまでの全てのピースが揃ったら、絵が完成する」
 ああ、ところで。と、彼女はここで一呼吸置いた。「君は漫画を読むかな?」なんて言われても、私はどう返せばいいのか分からない。読むことには読むけれど、彼女が指す漫画がどのジャンルのものなのか、それによってこの先の話が変わってくる。
 私が何も言わないで、否、言えないでいると、「とある漫画からの引用だけど」と、勝手に話を進められた。やはり反応を求めていなかったらしい。
「とあるシーンでとあるキャラクターが『人が死ぬのはいつか。それは人に忘れられた時だ』っていう名台詞を残しているんだけどね」

 どうして、こんな事になったのだろう。

 また一歩、近付かれる。私の思考が急速に展開されはじめ、自分でも何を考えているのか分からなくなっていく。いわゆる、パニック状態だ。そんな中でも『どうして』という言葉だけははっきりと輪郭を保っている。ぼやけることはない。
 「それじゃあ」と、彼女は更にもう一歩近付いて言う。私は動かない。動けない。

「今、ここで君が死んだら、君のパズルが完成するのはいつになるんだろうね」

 どうして私は、今まで遊び感覚で追い詰めてきた相手に追い詰められているのだろう。復讐と言われれば分かりやすいけれど、彼女がそんな思い切った行動に出られるとは思っていなかった。そうならないように接してきたのだから。
 彼女は、手に持ったナイフを私へ少しずつ近付けてくる。私の後ろには、私の肩甲骨ぐらいの高さしかないフェンスがある。その更に後ろは勿論何もない。フェンスを飛び越えれば私は死ぬ。そして、フェンスを飛び越えなければ私は殺される。

 どうして、こんな事になったのだろう。

 いじめが悪かった事は分かった。分かってた。でも、こんな殺されるかもしれない状況に追い詰められる程のことはしていなかった筈だ。それに、彼女を虐めていたのは私だけではない。私だけが悪い訳じゃない。私が死ななければいけない理由なんて、無い。
「分からないことは、実際に観察してみれば解決するよね」
 更に一歩彼女が近付いて、ナイフが私に届くところまできた。私は選択しなければならないのだろうか。自ら死ぬか、殺されるか。そんなの嫌だ。まだ死にたくない。

「私と君のピース、とりあえず一個埋めるために」

 ナイフが迫ってきて、私は何かを叫びながら逃げた。逃げようとした。逃げられなかった。だから必死で何かを叫んだ。何を叫んだのかはよく分からない。
 彼女は私を簡単に捕まえて、右手のナイフを振り上げた。そして

「 」