『△月に一度』


 月に一度、グリーンはふらっと何処かへ出掛けていく。その表情にいつものグリーンらしいものはない。どこか悲しげな顔をして出掛けている。楽しそうではないことは確かだ。
「レッドさんはグリーンさんがどこに行ってるか知ってますか?」
「……さあ?」
 コトネが興味津々に聞いてきた。行き先を言えば多分尾行するだろう。言わなくても尾行するかもしれない。
「……ハナダの洞窟、とかかな。あそこ、ミュウツーいるらしいから」
「本当ですか!? ちょっと私、ヒビキ君を連行して行ってきますね!」
「……いってらっしゃい」
 適当なことを言ったらコトネは簡単に信じて本当に行ってしまった。勿論あれは嘘だ。グリーンの行き先はそこではない。確証は無いけれど、あいつがあんな顔をしていくのはあそこくらいだ。それに、ハナダの洞窟のミュウツーは数年前に僕が捕まえてしまった。



「グリーンさんが本当に行っている場所は何処なんですか?」
 一ヶ月後、グリーンの背中を見送りながらヒビキがそう聞いてきた。今日はハナダの洞窟には行かないらしい。
「……聞きたい?」
 そう言って少し微笑んでみると、ヒビキは黙った。ヒビキには悪いけれど、言うつもりは全くない。心の中にずっとしまっておくつもりだ。
 目をつぶってみると、あのときの会話が鮮明に思い出される。忘れることなんて出来ないのだろう。



 僕たちがまだカントーを冒険していた頃のことだ。僕は、今ではトラウマになってしまったシオンタウンについた。あの町を包み込む異様な空気は忘れもしない。忘れたいけど。
 フジ老人を探すために、嫌々ポケモンタワーに入るとそこにはグリーンがいた。いつも通りグリーンが勝負を仕掛けてくると思っていたから僕はこのときだけはグリーンの登場をラッキーだと思った。だけど、グリーンは勝負を仕掛けてこなかった。
 その代わりに、グリーンはこう言った。
「お前のポケモン、死んだのか?」
 その顔に、少し腹が立つ嫌みな笑みはなかった。どや顔もしていなかった。
 グリーンは、悲しみにうちひしがれながらも、必死に耐えようとしていた。だから僕は何も聞かなかったし、何も言わなかった。

 その後、シオンタウンを出てからグリーンはまたいつも通りポケモン勝負を仕掛けてくるようになった。でも、ひとつだけ気になったことがある。それが僕にグリーンの身に何が起こったのかを教えた。



「……さん? ……レッドさん?」
 何度かヒビキに呼び掛けられて気がついた。そういえばはぐらかしてみた後だったっけ。教える気はさらさら無いけど。
「……やっぱり、知りたいです。教えてください、グリーンさんが、なにをしているのか」
「…………」
 さて、どうしたものか。どんな適当なことを言ったら誤魔化せるだろうか。少なくともコトネより騙しにくいことは確かだ。適当過ぎては意味がない。信憑性が高いかつ、シオンタウンから離れられそうな噂が転がっていなかったか……。
「……詳しいことは知らないけど、オーキド博士に言われて、とあるポケモンのところへ行ってるらしいよ。……カントーを走り回った頃は色々してたからね。それのアフターケアなんじゃないかな」
 ため息をひとつついてから言ったのはほとんど事実だった。つまり、適当な噂は何も思い浮かばなかったのである。……まあ、きっと大丈夫だろう。グリーンがなにをしているのか知って、邪魔をするような子達じゃない。



 あの日を境に、グリーンの手持ちからラッタが姿を消した。グリーンは他のラッタを悲しそうな顔で見るようになった。それだけで全ては物語られていた。
 グリーンに何が起きたのか僕は知らない。多分、今後も知ることは無いだろう。
 そして死ぬまで、グリーンは一ヶ月に一度彼処へ通い続ける。何かを思いながら。




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -