『バレンタインなんて爆発してまえ』


2月14日はバレンタインデー。どういうわけか女の子が張り切ってお菓子作りに精を出す日である。
したがって、真っ当な女の子であるコトネも例外なく張り切っていた。
「よしっ!わさび入りトリュフ完成っ!!」
……何かがずれているような気もするが。
「後はこれを……うひひ」
張り切るポイントがおかしいような気もするが。



「ひーびっき君!」
チョコのラッピングを終えたコトネが真っ先に向かったのはヒビキのところだった。
「何?」
「はいっ、これバレンタインデー!」
家から出て来たヒビキに、コトネは手に持っていたピンク色の箱を渡した。笑顔でバレンタインデーにこんなものを貰えば、男はたまったものではない。
「お、おうっ」
ヒビキは裏返った声で返事をしながらそれを受け取った。耳まで赤くなっていることは彼の名誉のために黙っておくことにする。
「ねえねえ、食べてみてよ!」
「い、今?」
「うん、今!」
バレンタインデーということで、二人の間に甘い空気が流れ始める。……しかし思い出してほしい。コトネが張り切って作ったものが果たして何だったか。



「グリーンさんにイタズラを仕掛けたいの!」
涙目で口と鼻を押さえるヒビキに、コトネは目を輝かせて言った。
「イタズラ……って、このトリュフで?」
「もっちろん!!本命チョコを貰ってしまったとぬか喜びしたところでこのトリュフを食べたら、どんなリアクションをしてくれるかなって。えへへ、ごめんね?トリュフの味見をしてなかったからヒビキ君に食べてもらっちゃった」
ペ○ちゃんみたいな顔でウインクをし謝るコトネ。味見役の必要が無ければヒビキはチョコを貰えなかったのか、という点は完璧に無視している。哀れな男である。

「と、言うわけだからヒビキ君!グリーンさんを外に呼び出して甘いものが食べたくなるくらい疲れさせてきてね!報酬は普通に作ったトリュフだよ!!」

……そして単純な男でもある。
コトネ手作りトリュフの為に、ヒビキは家を飛び出し、文字通り飛んでいった。



「ヒビキの奴……あんなに慌ててどうしたんだ?」
ポケギアでまくし立てるように呼び出されたグリーンは、状況も飲み込めないままピジョットに乗って指定された場所に向かっていた。
「しかもサントアンヌ号とか……俺、ふねのチケット持ってないんだけどな…………」
実は、ふねのチケットはヒビキが用意したためグリーンはヒビキと合流するだけでサントアンヌ号に乗れるのだが、『クチバシティの船着場にきてほしい』ということ以外全く聞き取れていなかった。お陰でグリーンは要らぬ心配に頭を悩ませる羽目になっているのである。ポケギアで聞けばいいものを、そんな発想には全く至らないのが残念なところだ。単純に考えればいいのに。

しかしまあ、いくら単純に柔軟に考えたところで、今回に限っては無駄なことだったかもしれない。
「あっ、グリーンさん!それじゃあこれで行ってきてください!もう出航するんで!!」
何せ、状況の説明を全くしてもらえないままサントアンヌ号に押し込まれてしまったのだから。会話をするという概念がヒビキに無かったのだ。つまりポケギアも無意味である。
「なんだってんだよー……」
グリーンがそう呟く間にも、サントアンヌ号は船着場を離れていく。もう戻ることは出来ない。
かつて自分がカントーを走り回っていたころのように、バトルでもして時間を潰しつつ考えよう。そう思ってグリーンが体の向きを変えた瞬間だった。

「はっぴーばれんたいん」

久し振りに顔を合わせる親友が不適な笑みを浮かべつつ棒読みでグリーンにそう告げた。



「つ、疲れた……」
トキワシティに戻ってくる頃には、グリーンはヘトヘトに疲れていた。船上でのポケモンバトル兼鬼ごっこで白熱しすぎたのだ。いい大人が船上で暴れ回るのはどうかと思うが。
「……なんだこれ?プレゼント?」
ジムの定位置に戻ると、そこに見知らぬ物が置かれていることに気付いた。それはピンク色の包装紙に包まれ、赤いリボンで飾られている。つまり、今日が何日かということを覚えてさえいれば、これが何なのか真っ先に分かりそうな感じだ。
「…………!バレンタインデー!!」
散々それをなめ回すように見つめてからようやく気付いたグリーンである。そして、急に挙動不審になりつつ丁寧に包装紙を外していった。

「お、おうふ……」
包装紙を全て外し、現れた箱の中に現れたのは勿論チョコレート。グリーンの中で、果たしてこれが本命なのか、それとも義理なのかという疑問が渦巻き始める。同封されていたメッセージカードにはグリーンの名前がかかれていたため、これがグリーンに宛てられた事は確かである。
「…………よし、とりあえず食ってから考えよう」
自分宛てなら問題ないと判断し、グリーンは箱の中の一粒をつまんで口に運んだ。

数秒後、絶叫がジム中に鳴り響いた。



「あはははははははっ!!」
グリーンがチョコを食べて悶絶しているとき、コトネは自室のパソコンを前に爆笑していた。
パソコンのデスクトップには、涙目で口を押さえてとりあえずチョコを飲み込もうとするグリーンの姿が。そう、コトネは隠しカメラを仕掛けてグリーンの様子をモニタリングしていたのだ。

翌日、ヒビキによってネタバレをされたグリーンが、既にどこかへ逃走したコトネの名を叫びながらカントーとジョウトを走り回ったのはまた別の話。


happy valentine(過去形)



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