『分からないんだから仕方ないじゃない』


イワヤマトンネルに、一人の少年と、一匹のメタモン、それから一匹のイワークが穴を掘って暮らしていた。穴というより、隠れ家という方が正しいだろうか。食材さえ調達していれば、何不自由なく暮らしていけそうなものだ。なかなか逞しい彼らである。
少年はこの隠れ家でポケモンの研究をしていた。深い傷を負って本来の力を失ってしまったメタモンの為に。そして、強くなれないのを理由に距離を置いてしまったイワークともう一度やり直すために。


事件は突然起こった。
いや、事件ではなく事故と言う方が正しい。自然被害。この言い方も適切だろう。
一口で言うと、イワヤマトンネルに掘って作った彼等の隠れ家が、突然崩れだしたのである。
「――――ッ!?」
実は、イワヤマトンネル内での落盤は別に珍しい事ではない。トレーナーが通らないだけで、イワーク達が作った道は幾らでもあるし、メインの道にも、幾度も繰り広げられるポケモン同士のぶつかり合いに耐えきれるほど、凄まじい強度が有るわけではない。したがって落盤注意の看板がちらほらと目立ち始めているのが最近のイワヤマトンネルである。
しかし不幸なことに少年はそれを知らなかった。看板をこまめに見るほどマメな性格をしていなかったのだ。だから、逃げられなかったし落盤を想定することも出来なかった。

「う…………あ…………」

不幸中の幸いか、逃げることが出来なかった少年はギリギリのところで生きていた。何が岩を支えたのか分からないが、うずくまった少年をギリギリ潰さないような空間が出来たお陰で、潰されなかったのだ。
「…………」
しかし、少年は動けない。目の前に腕一本が通せる程度の穴を見つけると、少年は観念したように目を閉じた。


突然モンスターボールの外へ繰り出されたイワークとメタモンは戸惑っていた。まず、少年が居ない。そして、自分達が繰り出される前に何か強い衝撃があった。少年がうつ伏せに倒れたせいでモンスターボールには目隠しがされてしまっていた。更に、岩で覆い尽くされてしまったせいで辺りは真っ暗だった。つまり二匹は落盤が起きたことも、少年がまだ中にいることも、少年が二匹を逃がしたことも把握できていないのだ。
が、そんな二匹の前に転がったものが直ぐに戸惑いを消し去った。

二つの、壊れたモンスターボール。

二つはもう二度と使えないだろう。はて、これはさっきまで二匹が少年と共存するために入っていたものではなかっただろうか。
イワークはそれを眺めてただただ呆然としていた。対照的に、メタモンは狂ったように何かを叫んだ。当然、壊れたモンスターボールはなんの応えも返してはくれない。
次の瞬間だった。
ビキビキと何かが壊れていく音を発しながら、絶叫しながら、メタモンが眩い光に包まれた。そして、光がおさまった頃にはメタモンは居なかった。
代わりに、苦しそうに荒い呼吸をするカイリキーが其処にいた。

「岩はこっちでどかすから、早く人間に助けを呼んでくれ」と、カイリキーはイワークに指示を出す。物凄い剣幕に押され、イワークは慌てて助けを呼びに穴を掘った。

相棒である少年を救うため、イワークはまずイワヤマトンネルから外へ出た。此処は暗いせいでトレーナーが少なく、野生のイワークがよく出現するため助けを呼べないとふんだのだ。野生だと思われて、戦闘になってしまっては少年は救えない。言葉の壁は、思っているよりも厚い。
しかし街に出るわけにもいかない。確かに人が多いが、急いでいるイワークがそんな所に行けば何かを破壊してしまうであろうことは明確である。人間を好む彼にとって、それは出来るだけ避けたい事態だった。
悩んだ末、イワークが行ったのはお月見山だった。近くのニビシティには、彼が好きだった少年が憧れていたジムリーダーがいる。しかも岩のエキスパート。意志の疎通が一番早く出来るかもしれないと考えたのだ。
その考えは間違いではなかっただろう。しかし、詰めが甘かった。それは命取りになった。

イワークの体が地面に沈んでいく。
その横を通り過ぎるのは一人の新米トレーナー。イワヤマトンネルで考えた戦闘がお月見山では考えなかった。そのせいでイワークは致命的な足止めを食らうことになったのだ。
新米トレーナーに非はない。彼はただ、強くなるために目の前に現れたポケモンとバトルをしただけなのだから。事情なんて知る由も無いのだから。
瀕死の体は、動かせない。

結末だけ言うと、イワークもメタモンも、少年を救うことは出来なかった。少年は帰らぬ人となった。
あの時、バトルさえ無ければ。と、イワークは自分を責めた。そしてそれは何時しか憎しみへと変わっていった…………。


夜のお月見山。憎しみを抱え亡霊のように彷徨く影は、今日も行き場のない怒りをぶつける。止める者は居ない。理解出来る者も居ない。


end



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