『強くはないけど』


ニビジムのタケシ。四天王のシバ。
岩タイプの使い手の二人に憧れてとある少年はイワヤマトンネルに入り、イワークを捕まえた。家に居たポケモンを勝手に持ち出した挙げ句、自分のポケモンを持たない子供一人が入るにはやや危険なイワヤマトンネルに入ったことはそれはもう、後でこっぴどく叱られるほどの大事件だったのだがそんな事はおいといて。
少年にとって、イワークは初めて戦闘をし、初めて捕まえた、正真正銘初めてのポケモンだった。同時に、イワークにとって少年は、自分を捕まえようとした初めてのトレーナーだった。そう。人間とポケモンとで、お互いに触れ合うのが初めてだったのだ。ある程度少年かイワークが成長していれば、これは障害となり中々歩み寄れない関係が出来やすくなっていたところだろう。しかし、双方とも幼かった。だから、お互いに何の気遣いもなく、お互いはお互いを知り深いところまで歩み寄る関係にすぐになったのだった。

「イワーク、しめつける!!」

少年の声が高らかに響く。イワークはその体を鞭のように柔らかくしならせて相手のポケモンをしめつけた。絶好調である。
「ちぇー……またお前のイワークに負けた……」
「にひひ、このイワークとなら負ける気がしないよ」
バトルが終わると少年は嬉しそうに笑いながら言った。イワークは少年のこの顔が見るのが好きだった。だから、バトルに負けることは殆ど無かった。これはイワークの誇りだった。

月日が流れれば、少年もイワークも成長する。勿論、周りのトレーナーもポケモンも成長していく。
いつからか、少年とイワークは昔のように連戦連勝出来るほどの強さを失っていた。それと同時に少年の顔から笑顔は消えていき、悲しげな顔ばかりが浮かぶようになっていた。イワークは焦っていた。しかし、気合いで勝つというかつての戦法はもう通用しなくなっていた。

それから、少年がいくら憧れて真似したところで、自分にセンスがなければ届かないと気付くのに時間はかからなかった。
そして次第に、少年はポケモンバトルをしなくなっていったのである。人間、生まれ持つものはとても不平等だ。自分にはそれが無いと、少年は諦めてしまったのだ。
イワークとの距離も広がっていく一方だった。


誰もが目指したチャンピオンを諦めた少年は、ある日久し振りに相棒のイワークを連れてポケモンタワーを訪れた。かつて、相棒を捕まえるために家から勝手に持ち出したポケモンの墓参りをするためだ。
「あれ……お墓、何処にあったっけ…………」
不気味なほど静寂に包まれたポケモンタワーに、少年の呟きが響く。相棒のイワークを出して一緒に探してもらいたいところだったが、大きさ的に無理があると少年は冷静に考えて、ぐるぐるとポケモンタワーを回っていた。
「仕方ない、虱潰しに探すしか無いか……って、どうしたんだよ?イワーク」
少年がため息をついたその時だった。モンスターボールに入ったイワークがカタカタと激しく揺れ始めたのだ。
「……イワーク?」
ベルトからボールを外して、中を覗き込みながら話しかける。イワークはボールの内側から、何度も何度もボールに頭突きをしていた。
「……外に出たいの?」
出して良いものなのだろうか。そう悩みながら少年は尋ねた。しかし、意外なことにイワークは頭突きを中断して、首を振りそれを否定した。外に出たいわけではないらしい。
イワークはまた頭突きを始めた。一カ所にただひたすら頭突きをする姿に、少年は頭を抱えた。相棒は一体何を自分に伝えようとしているのだろうか?自分が強くないから、バトルに勝てないから。そんな事を理由にイワークと距離を置いてきたことを少年は後悔し始めていた。
そんな事をしていなければ、きっと今イワークとの意志の疎通が楽に出来ていたはずだ。
じっとイワークを見る。イワークは、確かに少年に何かを伝えようとしている。

「……何かを、見つけたの?」

考えてやっと出て来た答えはそれだった。そして、それが正解だった。イワークは頭突きで見つけたものの方向をひたすら伝えようとしていたのだ。
イワークの道案内を頼りに少年は歩く。初めは、探していたお墓を見つけてくれたのかと思った。しかし、そうではなくイワークはもっと大切なものを見つけていた。
「……あれ?メタモン?」
お墓とお墓の間の陰に、何かに怯えて隠れているような、一匹のメタモンがいた。しかしおかしい。メタモンは普通ポケモンタワーには居ない。
もしかして、もしかすると、実はあのメタモンは幽霊なのか?そんな考えが少年の脳裏をよぎり少年を震えさせた。怖いものは怖い。
結果的に、そんな考えはすぐに吹っ飛んでいった。

「すごく衰弱してるじゃないか!早く手当て……ポケセン!!ジョーイさん!ジョーイさぁぁぁぁん!!」

よくよく見ると、そのメタモンは傷付いて衰弱しきり、死にそうになっていた。それに気付くと少年の頭は真っ白になった。イワヤマトンネルの近くに住んでいた彼は、イワヤマトンネルに住んでいるポケモン達が好きだったのだ。
体は自然と動いていた。考えるよりも早く、メタモンを抱えてポケセンに飛び込みジョーイさんにタックルを決めていた(ラッキーが間に割って入ったが)。





数時間後、メタモンは無事一命を取り留めた。
ジョーイさんに、しばらくの間メタモンの世話をしてほしいと頼まれ、少年は二つ返事で引き受けた。放っておけるはずが無かった。
「……でておいで、イワーク」
メタモンを抱きかかえポケセンを出てイワヤマトンネルに向かいながら、少年は久し振りにイワークをモンスターボールから出した。
「ありがとう、イワーク。それから……ごめん」
顔を撫でるとイワークは気持ちよさそうに目を細めた。イワークにとって、久し振りの温もりだった。
それから少年は、ずっと考えていたことをイワークに打ち明けた。

「イワヤマトンネルの中に隠れ家を作って住みたいんだ。僕と、イワークと、このメタモンと。……メタモンは元々彼処のポケモンかもしれないから体にいいかなって」

そう言って少年は笑った。イワークが好きだった笑顔が、また少年の顔に戻った。
タケシやシバの“強さ”に憧れたが、自分には無理だと“強さ”を求めることを諦めた少年は、優しさも“強さ”だと気付けただろうか。

end



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