『天然でドジっ子な彼女』


幼なじみであるメイはかなり天然だと思う。
ずっと一緒に育ってきての結論だ。覆ることは多分無い。
どの位天然かと言えば、「よし、ホドモエシティにレッツ!」とか言いながらワンダーブリッジ方面に進んで「あれ?」ってなったり、特性がイリュージョンのゾロアークを出して、「あれっ?なんでジャローダなの?えっ?」なんて言って慌てたりする程度だ。一緒に旅をしていて微笑ましいことこの上ない。メイがその天然さを発揮する度に僕は和んでいる。

ただし。

天然だからと言って可愛いところばかりでは無い。
天然過ぎるが故に、とんでも無い事をしでかし武勇伝を作ってしまっている。

代表的な武勇伝がこれだ。
一番最初のジム、ヒオウギジムでの話。
ジムリーダーを初めて務めるチェレンさんに対し、メイが繰り出したのはなんとジャローダだった。
チェレンさんの前の二人の時には、ツタージャだった筈なのに。
勿論、チェレンさんの目は点になっていた。
僕の目も点になった。

チェレンさんを一撃で沈めた本人に、話を聞いてみたら「とりあえずレベルを上げれば良かったのかなって」というお言葉を頂いた。とりあえずの域を越えている。否、越えたとか言う次元ではない。逆に、よくジャローダが言うことを聞いてくれたなと感心してしまう。
しかも、この武勇伝にはまだ続きがある。

なんと、ジャローダはまず一発目に『はかいこうせん』を放ったのだ。おかしいというレベルをとうに過ぎている。まずレベルアップでジャローダは『はかいこうせん』を覚えない筈だ。ヒオウギジムを制覇する前になせる業ではない。

そんな凶悪な天然のメイと共に僕はプラズマフリゲートに来ていた。敵陣地に乗り込んで居るのだから、少しぐらい不安があっても良いはずなのだけれど……。

「サザンドラ!きあいだま!!」
「プラーズマー」
「ジャローダ!ハードプラント!!」
「プラーズマー……」
「エレブー!かみなりぱんち!!」
「プラーズマァァァァ……」

不安って、なんだっけ。
プラズマフリゲートに乗り込んだものの、全くやることが無い僕は、メイのポケモンの回復役に徹していた。この様子なら直ぐに奥へ進めるだろう。
今更、メイが持っているポケモンがおかしくないか?なんて突っ込みはナシだ。此奴はこういう奴だ。こういう奴なのだ。と、必死に自分に言い聞かせる。納得しろ。納得するしか無いんだ、僕。





幸か不幸か……多分僕が幸でプラズマ団が不幸だがそれは置いといて、随分あっさりと奥へ辿り着いた僕である。メイ先輩ぱねぇっす。
「ヴィオを止めれば良いのかな?キョウヘイ君、行くよ!」
そうこうしている内に、何だかんだでバトルになった。僕がのほほんとしている間に話が進んでいたらしい。僕はメイに促され、慌ててポケモンを繰り出した。

「行け!ケンホロウ!!」
「行け!オノノクス!!」

僕がケンホロウでメイがオノノクスだ。僕達のポケモンを見た瞬間にヴィオがニヤリと笑った気がした。……嫌な予感がする。


「行け、フリージオ」


静かに、はっきりと勝利を宣告するかのようにヴィオは言った。フリージオ……嫌なタイプに当たってしまった。
「フリージオ、『れいとうビーム』!」
「くっ…………」

レベル差もそれなりにあったことから、僕のケンホロウはあっさりと『れいとうビーム』の一撃で倒されてしまった。残念無念。不甲斐なさすぎる。
だが、落胆し始めた僕に対してメイはウインクをした。まるで任せてとでも言いたげな「私に任せてっ」あ、今言った。
メイはフリージオと相性が悪いオノノクスを引っ込めずに、むしろ一歩前へ踏み出した。その顔は自信に満ち溢れている。この程度のこと、何でもないと言いたげに笑みすら浮かべている。

「オノノクス、『げきりん』!!」

笑みを浮かべたままメイはオノノクスに命じた。しかしオノノクスの素早さが速くとも、フリージオはまだ少しだけHPが残っていて、ピンチが終わった訳ではない。まだ、一撃で倒される可能性はある。

結果だけ言えば、可能性はあくまでも可能性だったという話だが。
フリージオは攻撃をして来なかった。否、出来なかったのだ。
「残念ながらオノノクスには『おうじゃのしるし』を持たせています!」
つまりそういう事だった。
攻撃した相手を怯ませる効果のある『おうじゃのしるし』と、オノノクスの素早さによりメイは一方的な攻撃を可能としていたのだ。

「さあ、ガンガン攻めなさい!オノノクス!!」

実質的に、ずっとメイのターン。
ヴィオの手持ちが戦闘不能になるまで、メイはオノノクスという名の暴力を振るい続けた。笑顔で。
ポケモンバトルを純粋に楽しんでいると言えば聞こえは良いのだが、これは見方によればただのリンチである。

こうしてメイは武勇伝をまた一つ生み出しつつも、ヴィオを倒した。圧勝した。この流れは、プラズマフリゲート最深部に居るアクロマ戦まで余裕で続く。……多分、これからも。

天然でドジっ子で、色々とやらかしてくれる彼女。実は僕の……いや、何でもない。


end



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