『とある無名は語る』


今から僕が語るのは、あの人たちに憧れ続けた僕自身の物語。
どうしようもなく痛々しくて、狂っていた僕の話を恥ずかしげも無く語ろうと思う。
だから何も言わずに聞いてほしい。
頂点に憧れ続けた無名の話を―…





物心ついた時から、僕の家にはポケモンがたくさん居た。
だから僕は自然に、必然的にポケモンが好きでポケモントレーナーになりたくて、"最強"に憧れ"頂点"になりたいという夢を抱いていた。
そんな夢を抱き始めたのが僕が五歳の時。
結局それは八年経った今でも変わっていなくて。僕は旅にでた。親もなんだかんだで了承してくれて、昔から家にいて慣れ親しんでいたロコンを連れて僕はただひたすら最強を目指した。

初めは順調だった。
色んなポケモンを集めて、育てて、時には他のトレーナー達に挑んでいった。
自信もついてきた頃には僕はバッチを2個持っていて。ジムに自分の名前を刻まれたことがなによりも嬉しかった。


「お疲れ様、ロコン。」
3つ目のジムを制覇し、僕は相棒を撫でた。
ロコンは疲れ切っているようで、僕は急いでポケモンセンターに向かうことにした。
―と、そこでジムに刻まれた2つの名前が気になった。

『グリーン』と『レッド』。

この2つの名前は僕が今まで行った3つのジムで刻まれていた。しかも最近のもののようで、僕はこの二人がどんな人物なのか気になった。
そして思い切って、ジムの管理者に聞いてみた。
「グリーンとレッド?ああ、あの二人は次期チャンピオン候補だと、ジムリーダー達の間で噂されているよ。
年齢は君と同じくらいだが…なんだろうセンスが桁違いなんだ。君も一度巡り会えるといいな。」
ジムの管理者は息子の自慢でもするかのようにそう言った。

次期チャンピオン?
ジムリーダーに認められている?
桁違いのセンス?

僕と、同年代でそんな恵まれた才能を持っている?

僕は嫉妬した。羨んだ。嫉んで、妬んだ。才能が恵まれていることに。認められていることに。実力があることに。

自慢するように、語られることに。

羨ましかった。恨めしかった。
今思えば子供じみていて、しょうもなくて、単純で。でも理由は僕には十分すぎて。僕は2人を倒すことを誓って、無理矢理にでも強くなろうとした。ポケモン達のことを気にもかけずに―…


あの日からすこし経って。
僕は狂ったように勝つことに固執していた。狂っていると分かっていながら、これが正しい道だと確信していた。
はっきり言おう。僕は荒んでいた。

そんな時に僕は赤い彼…探し求めていた『レッド』に出会った。

彼はとにかく寡黙だった。僕がバトルを申し込んでも、何も言わずに頷くだけだった。
寡黙というところ以外には他のトレーナーと変わったところは無くて、オーラみたいなものも感じなかった。
ただ、ピカチュウをモンスターボールに入れていない所が珍しかったが…。
とにかく僕は、彼を倒そうと躍起になっていてバトルは直ぐに始まった。

そして直ぐに終わった。
僕がボロ負けするという結果で。
あまりにも完膚無きまでに負けるといっそ清々しくなってしまう。実際は呆けてしまっていたのだけれど。今までつけてきた自信は全て崩れ去った。

「…何をそんなにムキになってるの?」
ボロクソに負けて、呆けている僕に彼は唐突に聞いてきた。僕はなにもいえない。
「…ポケモン、困ってるよ。」
彼はそう言って何処かへ消えていった。肩に乗せたピカチュウを撫でながら…。

彼が居なくなると僕は一気に脱力した。みっともなくその場にへたれこんだ僕の手をボールに戻していなかったロコンが舐めた。

『ポケモン、困ってるよ。』

彼の声が頭に響く。
「うん…ごめん。今までごめんな…!!」
今までのポケモンに対する僕の態度を考えると申し訳なさからか、それともそんな事をしてもこんな結果だったという悔しさからか、涙が自然と零れ落ちていた。
僕は今まで何をしていたのだろう。そして、彼のあの強さはどこからきているのだろう…。

僕は彼を倒すとか追うとかはやめて彼を理解しようとした。

僕と彼で決定的に違うところ…。それが分かれば僕は彼のようになれるかもしれない。子供ながら僕はそう思い至った。

「…やけに楽しそうにバトルしてたよなぁ…。」
何度思い返しても彼とのバトルはそこが印象的だった。寡黙で基本無表情だったけれど、バトルの時だけ笑みがこぼれていた。

そこで僕はやっと狂ったように勝ちを求めることが無意味…むしろマイナスだと気付いた。やっと気付けた。

結局僕は、この日から強さを求めることをやめた。





時は流れ現在。
強さを求めなくとも僕は気付けば最後のジムに挑戦しようとしていた。場所はトキワシティ。しかしジム名はトキワジムではない。
「…『グリーンジム』…?」
名前を見た瞬間に吹いた。なんと言うか、残念なネーミングに。
しかもこのジムのジムリーダーはいつしかの僕が追い求めていた二人のうちの片方、『グリーン』だそうで。
自分の名前をジム名にするとかどうなんだろう。自分の事が好きなのだろうか…?いやいや、それでは単なるナルシストじゃないか。

それにしても、中に入ることを躊躇させる。
聞いた話だとレッドさんとグリーンさんは大の仲良しの幼なじみだそうで。
いつしか僕が惨敗した人の幼なじみ。それだけで何かトラウマ的なものが刺激される。
結局中に入ったのだけれど。

中に入って、割と早くジムリーダー…つまりグリーンさんに辿り着いた。
グリーンさんはレッドさんとは打って変わって寡黙でもなければ無表情でもなかった。しかしバトルを楽しんでいるところは一緒である。

「―ったく、あなた達は正反対にソックリだよ…。」
苦戦するバトルの中で無意識に呟く。
「ん?達?」
そんな僕の独り言にグリーンさんが反応した。
「あなたと、レッドさんですよ。」
「…あー、なるほどな。お前レッドともバトったのか。どうだった?」
「どうだった?って…勿論惨敗しましたよ。お陰様で軽く僕のトラウマになりましたよ。」
「あっはっは、そりゃあチャンピオンになったくらいだからな彼奴。そうじゃなくてバトってどうだったかって話さ。」
グリーンさんは軽快に笑いながら言った。僕の手持ちがまた一体倒される。今僕の手持ちで残っているのは相棒…ロコンただ一匹だった。
打って変わってグリーンさんの手持ちは残り三体。なんとなく、結果が見え始めていた。
「どうだったか…さっきも言ったとおりあなたとソックリでしたよ。強いて言えば、ポケモンへの愛が並大抵じゃないとかですかね。」
グリーンさんの一体を撃破した。転機が訪れるだろうか?

「一度彼奴の部屋に行ってみろ。あれは凄いぜ。」
「あれ?」
「ポケモンの本から写真からグッズから…「大体分かりましたごめんなさい。」
「謝るなよ…。よく居るだろ?」
「まあ…居るには居ますけど…。」
「ちなみに彼奴のパジャマはピカチュウ柄だ。」
「ぶふぅッ!?」
「割と似合ってる。」
「グリーンさんってレッドさんの事好きですよね…。」
「はぁ!?そんな事ねーよ!!」
グリーンさんは照れ隠しなのか軽く叫び、僕のロコンを倒した。
つまり僕は負けてしまったわけで。
でも、楽しいバトルだった。

「レッドさんって、今何処に行るんですか?チャンピオンとか言ってたからやっぱりチャンピオンリーグですかね?」
ジムを出る前に最後、僕は一番気になっていた事を聞いた。一応僕はリベンジしたいとか思っている。
そんな僕にグリーンさんは苦笑混じりに言った。
「彼奴はどっかに失踪したよ。何処に居るのかなんて分かりやしねぇ。」
すぐに僕は、それが嘘だと分かった。割と嘘がつけないグリーンさんである。
でも僕は、あえて気付かない振りをして失踪の理由を聞いた。
理由は簡単だった。


トキワシティに背を向け、僕は帰路についた。勿論バトルで傷付いたポケモン達を回復させてから。
そろそろ旅を終わらせよう。そう思ったのだ。
僕は強さを求めない。
だから、チャンピオンリーグにも行かない。

ロコンを肩に乗せる。
今までの感謝の意を表して撫でてやった。
さて、これから僕はどうしようかな。

「夢は、叶えるもんじゃ無いんだなぁ…。」

独り言は誰かに届くことなく消えていった。


ーendー





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