8番道路中央部の草むら。
ここは僕のお気に入りの場所だ。
近くにトレーナーが居るけれど、此処は『いあいぎり』が無ければ入ることが出来ないため、トレーナーとの戦闘という危機感に襲われることは無い。
草むらだから勿論野生のポケモンが居るけれど、良い奴ばかりだ。僕たちは毎日を楽しく過ごしていた。
楽しい毎日は、今だって続いている。
これは、そんな楽しい毎日をほんの少しだけ曇らせた話だ。
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その頃は、良くない噂をよく耳にした。
謎の男たちが各地でポケモンを乱獲しているとか、すぐそこにあるシオンタウンで老人が攫われたとか、そんな噂。
幸い此処の草むらには謎の男は来なかったけれど、ポッポたちから聞いた話だとヤマブキシティがかなり酷い状況だったらしい。なんでも、謎の男たちに街を占領されていたとかなんとか。
8番道路はヤマブキシティとシオンタウンを繋ぐ道路なのだけれど、何事も無かった事が奇跡のように思える。実際奇跡だったのかもしれない。
男たちの目的は分からないけれど、他の地ではポケモン乱獲もされていたのだ。目を付けられなくて良かったと心底思う。
僕たちは、そんな外の状況を恐れたこともあり、この草むらから一切出ようとはしなかった。
そんなある日事件は起きた。
ほとんどトレーナーが入ってくることが無いこの草むらに、一人の男が入って来たのだ。男というか、少年。
少年は挙動不審に辺りを見回しながら、ぐるぐると草むらを歩き続けた。そして、ポケモンを見つけると手当たり次第に倒していく。
たまにシオンタウンの方へ行ったかと思えば直ぐに帰ってきて、また手当たり次第に倒していく。そんな事をとある日から毎日繰り返し始めたのだ。
僕たちは、倒されたポケモンたちを癒やしながら、その少年をなんとか倒す方法は無いのかと頭を捻らせていた。
そして思い至った。
倒されたポケモンは皆、単体だったのだ。ならば、集団で戦闘を仕掛けてしまえば良いのだと。
トレーナーは大体六匹ずつポケモンを連れて歩いているから、その三倍以上、つまり十八匹以上で一斉に攻撃を仕掛ければあの少年もしっぽを巻いて逃げていくのではないか。そんな単純で、でも大掛かりな作戦は直ぐに決行された。思い立ったが吉日、だ。
少年はこの日も勿論来た。
僕たちの作戦を知る由もなく、ノコノコやってきた。
だから僕たちは、空を飛び少年の様子を観察していたポッポの合図で、一斉に攻撃を仕掛けた。
サンドたちのすなかけで反撃を極力封じ、ロコンたちの尻尾で防御を下げつつ、アーボたちの毒でジワジワ追い詰める。ポッポ、マンキー、ガーディ、ニャースのその他組でがむしゃらに攻撃し続ける。レベルがあまり高くない僕たちの精一杯の頭を使った戦法だった。
偶に反撃を喰らって誰かが倒されてしまっても、僕たちは粘り続けた。ベトベターにでもなった気分で粘り続けた。キャタピーの糸の如く粘り続けた。
そのしつこい粘りは結果的に少年が背を向けてシオンタウンの方まで走っていくことになった。
僕たちの勝利だった。
その日の夜、僕たちは喜びのあまりしばらく熱気が冷めなかった。戦闘の楽しさを知ったことも関係しているかもしれない。
後日、少年からの仕返しが来るなんて事を知る由もない僕たちは、この話を武勇伝として語り継ぐことを決意しつつ、どんちゃん騒ぎをしたのであった。
少年からの仕返しがあってから、この話は笑い話へとシフトチェンジした。
それでも僕たちは誇る。野生でも、一度はトレーナーに勝てたのだと。
あの日、ガーディの代表として攻撃の指揮が出来たことは、僕の一生の思い出に残るだろう。
おしまい