『絶賛失踪中』



あの日、Nがレシラムに乗って何処かへ飛び去ってから、どれぐらいの時間が経ったのだろう。

ふと彼のことを思った私は、何故こんなにも無計画に行動したのか分からないけれど、何処かへ消えた彼を探す旅に出た。
本来、行ったことのある場所へしかポケモンは飛べないけれど、ゼクロムに頼み込んで無理矢理イッシュを飛び立った。勿論、誰にも告げず。
チェレンやベルにはきっと帰ったときにこっぴどく怒られるんだろうななんて思いながら、私はNを探し続けた。それは、今日という日も同じだ。

「う、ふ、ふ…………Nったら素早すぎるのよ……!」
ホウエンから旅立ちながら、ゼクロムの背で一人呟いた。
シンオウもホウエンも、目撃情報(主にジムで)を頼りに各地を駆け回っても彼の姿を掴むことはただ一度も無かった。雲を追っているような気すらしてくる。確かに掴み所が無いような気もするけれど。
でも、此処まで一方的な鬼ごっこを繰り広げられると、むしろ避けられているような気がしてくる。もしそうなのだとしたら、凄く悲しい。今すぐ泣けるぐらいには。
多分Nは、私がNの事をどう思っているか知らないだろう。知る由もないだろうし、知って欲しくない。恥ずかしすぎる。
「よし、とりあえずNを見つけたら一度電撃をぶっ放す!」
何だかむしゃくしゃしてきた。ヤンデレではないと一言言っておこう。
ワターシ、ヤンデレ、チガウヨー。

「あ、ゼクロム、其処で一回休憩しようか」
お馴染みのポケモンセンターのオレンジ色の屋根を見つけて、其処へ着陸する。さて、ここは何地方の何処だろうか?一応、ジョウト・カントーを目指したし、途中かなり標高が高い山を見たからジョウトかカントーであるはずなのだけれど。
「……ううん、なんか不気味…………」
ポケセンを後回しにして町を歩いてみる。凄くちいさな町で、ジムは無いようだ。ついでに外には誰も居ない。変わりに、大きなタワーがあった。これが不気味さの正体だろうか。

思い切って入ってみた。

中には、お墓が立ち並んでいた。受付の人に話を聞いてみると、ここはポケモンを祀る『シオンタワー』というところらしい。
このシオンタワー、昔ロケット団という人達が一人の老人を拉致して最上階に立てこもった事があるらしい。何処でもそんな事が起こるようだ。その老人を一人の少年が助けたなんて話もあるから親近感がわいてしまう。同じ様なことを私もしてきたのだから。
更に、上の階に進むにつれ幽霊が出るとの噂もあり、登るのは断念した。戦えない相手には遭遇したくない。決して怖いわけではないけど。決して。
「ああ、受付のお姉さん」
「はい?何でしょうか」
立ち去る前に、お決まりとなってしまった質問をする。
「此処に、緑のちょっともさっとした一つ縛りの髪の毛の、謎の電波を発する男が来ませんでしたか?」
ああ、その方なら……と、受付のお姉さんは記憶を巡らし始めた。ここへ来た事が無駄にならなかった安堵感と、また会えなかった寂しさが押し寄せてくる。
「確か、そろそろ帰るなんて言っていましたよ。そういえばその人も、誰かを捜しているなんて言っていました」
不思議な人でしたよ。と受付のお姉さんははにかんだ。
私の中では、時間が止まったような気がした。

そろそろ帰る。
そろそろイッシュに帰る。
Nはそう言ったのだろう。あの日、私と理想と真実をぶつけて、何かを求めるように各地を飛んでいたNの目的は果たされたのだろうか。はたまた、誰かを捜すために帰ったのだろうか。その誰かが誰なのか、私に知る由も無ければ知りたくもないけれど。

とにかく。

とにかくNはイッシュへ帰ったのだ。
なら、今私も大急ぎでイッシュに帰ればNに会えるかもしれない。そう思うと心踊った。
心踊った半面、私はNが好きなんだなと確認させられたような気分になって呆れた。

それでもこのルンルン気分は収まらない。
私は早口でお姉さんにお礼を言うと、シオンタワーを飛び出して、ゼクロムに飛び乗り、イッシュに向けて飛び立った。

大好きなあの人に会うために。



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -