『新米役者のイッシュ最強』


ここはポケウッド、『大怪獣3』撮影スタジオ。
なんとかイッシュ地方を巡り、無事チャンピオンリーグを制覇した僕は、久しぶりにまた役者に挑戦してみようかなー、なんて思った訳で。新しく追加された『大怪獣』の台本が面白そうで挑戦してみたら、続きが気になってしまった訳で。
結果、3の撮影をしているのだった。

「オラァッ!!ちゃんとポケモンを見ろポケモンを!!」

そして、当然の如く怒られまくっているのである。
「まずはその力、示してみよ……」
横から叱責の声が上がっても編集でどうにかなるため撮影は続く。嗚呼、次は僕の台詞だ。えっと、台詞……台詞…………。台詞?
「…………ふざけるな!!」
「お前がふざけんな!!」
また怒られた。どうやら監督の思惑とは大きく外れてしまったらしい。うう、監督の思惑を汲み取るのは難しい。難しすぎて苦手だ。よくわからない。
「時にその勇敢さが、人を苛立たせるのだぞ…………」
それでも撮影は進む。相手の役者さんには、本当に申し訳ない。
さて、切り替えて早いところ挽回しなくては。確か、次からバンギラスの弱点を徹底的に叩いて2体とも倒す脚本だったはず。

「バンギラス、“りゅうのはどう”!!」
「うっ……スターミー、“しおみず”!」

でも、このバンギラスの“りゅうのはどう”は厄介だ。なんで“ひかりのかべ”を覚えているポケモンにしてくれなかったのだろうか?……もしかして、僕の台詞のせいだろうか。それならば、今後の展開が厄介というか、リタイアせざるをえないことに…………!
「ああっ!?急所!?」
なんてうちに、スターミーが倒されていた。まだ一撃もバンギラスに与えて居ないのに……!
「いけっ!ヤドラン!!」
出来ることなら、この映画を一発で成功させたい。もう、ヘンテコムービーとして名が広まるのはごめんだ。

一度ヤドランには“どわすれ”をさせてから、“しおみず”を命じる。オレンの実を使ってしまったけれど、なんとか一体目のバンギラスは倒せた。この調子で2体目のバンギラスも倒すことが出来れば撮影は終わるのだけれど…………。

「もうやめだ、やめだ!オレは帰る!!」

奇跡なんて起こるはずもなく、僕は普通に倒された。あーあ、また撮り直しだ。
でも、その前に監督に全力で謝罪して機嫌を直してもらわなければならない。

「あっ、あの!監督!!申しわ」
『うわぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!』
『キャァァァァァァァァッ』
「!?」

勇気を振り絞り、監督へ頭を下げたら、突然後ろが騒ぎ出した。悲鳴と『とりあえず逃げろ!』という声が聞こえる。
「……キョウヘイ君、顔をあげなさい」
「は、はい」
怒っていたはずの監督が、やけに落ち着いた声で言った。しかし、言われた通り顔を上げれば、その顔が全く落ち着いて居ないことが分かる。
「撮影はまた今度だ。今は逃げなさい」
「え?」
後ろで何が起きているのか。振り返ってみると、2体のバンギラスが暴れていた。

機材を薙ぎ倒し、振り回し、壁に叩きつけながらスタジオをめちゃくちゃにしていく。砂嵐も吹き荒れていた。
「……か、監督、機材は?」
「安全に壊れる仕組みだ。心配する必要はない」
今のうちに逃げるぞ。と、監督は言った。
しかし、NGの心配も、機材の心配も要らないのなら僕には逃げる必要が無いだろう。

何せ僕は、イッシュ最強となったのだから。

トレーナー無し、回復の木の実無しのバンギラスを対処出来ない筈が無いのだ。
「あのバンギラス、倒しても構いませんか?」
そう言いながら、腰のモンスターボールに手をかける。撮影で決して使わないのを約束に、僕は手持ちのポケモンを連れてきて居たのだ。
「いけ!ジャローダ、ランターン!!ジャローダは“やどりぎのタネ”、ランターンは“シグナルビーム”だ!!」
構わない。と監督に許可を得たと同時に、僕は手持ちのジャローダとランターンを繰り出し、バンギラス達とのバトルを開始した。

ジャローダの素早さを生かしながら、2体に“やどりぎのタネ”を植え付けると、次に“どくどく”で猛毒を浴びせた。苦戦を強いられそうな相手にはいつもこうしている。ついでに、ランターンの“シグナルビーム”のお陰で片方のバンギラスは混乱状態に陥ってくれている。
「わあぁぁぁぁっ!?」
突如地面が大きく揺れ、僕はその場に倒れ込んだ。同時にランターンも倒れていて、どうやら“じしん”を喰らってしまったらしいことが分かった。
確か、“じしん”を覚えていたのはレベル60の方だ。と、いうことは、もう片方のバンギラスは“こおりのキバ”と“かえんほうしゃ”を覚えている!!
マズい、と思った時には遅く、ジャローダは黒い煙を出しながら倒れていた。“かえんほうしゃ”を喰らったのだろう。これで2体とも戦闘不能だ。
「……くっ、いけっ、ケンホロウ、ギャラドス!!」
ジャローダが仕掛けた猛毒は、今どのぐらいきいているだろうか。段々この2体のタフさに心が折れてしまいそうだ。ダメージなんかものともせず、2体は猛威をふるい続ける。
「ケンホロウ“そらをとぶ”!ギャラドス“なみのり”!!」
ギャラドスに飛び乗りながら、技を命じた。ギャラドスの“なみのり”はバンギラスを一体倒したが、片方は持ちこたえてしまった。そして、ギャラドスも呆気なく一撃で倒されてしまう。
でも、僕には空へ飛び上がったケンホロウが居るのだ。

「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
空から急降下してきたケンホロウの攻撃は、見頃バンギラスに直撃した。





「キョウヘイ君……君は……」
「ええ、ちょっとイッシュを制覇してきまして」
「……そうか」

騒ぎをおさめた後で、監督とそんな会話をしてから僕は久しぶりの我が家へ帰ることにした。
後日、ポケウッドを訪れると、何故か『大怪獣3』が公開されていて、バトルシーンがバンギラス2体を大人しくさせるためのあのバトルだったことはまた別の話。


the end



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -