ホドモエシティに新設されたポケモンワールドトーナメント。
俺はそこに招待されて、イッシュまではるばる飛ばされた。
なんでも、各地のジムリーダーやチャンピオンを集めて挑戦者を待ち受けるトーナメントだとかなんとか。
そこで俺に生じた問題点はただ一つ。
「……俺、どっちのトーナメントだ…………」
カントーなのかチャンピオンなのか、悩みに悩んだ末に受け付け付近でウロウロする不審者な俺である。
レッドに潰されてから行方を眩ませたサカキの後釜として、俺はトキワシティのジムリーダーをしている。が、レッドに倒されるまでの数十分はチャンピオンをやっていた。
さあ、どうする俺。
「だぁぁぁぁ!あいつのせいでなんで俺がこんな事に!」
受け付けのお姉さんの視線が痛い。どれもこれもレッドのせいだ。
しかもあいつは此処に来ないとか言いやがるし。言いやがるし!
思わず頭を抱えてぶんぶんと振り乱してしまった。周りの人から浴びせられる黒いまなざしに心が折れそうだ。
「……不審者だ」
「誰のせいだ!!」
「……おまわりさーん」
「うぉぉぉぉい!?……って……え?」
お巡りさんを呼ばれそうになったため何時もの調子で突っ込んだところで、あることに気付いた。
「は!?え!?レレレレ、レッド!?」
「……レレレレレッドって誰」
シロガネヤマに絶賛引きこもり中の赤が目の前にいた。目の前でホドモエ煎餅を咀嚼していた。
「いやいやいや、お前来ないって言ってたよな?!シロガネヤマに引きこもりしてるんじゃ無かったのか!?」
「誰が」
誰が行かないなんて言ったの?と、目が訴えていた。
「……グリーンと一緒に行きたくなかっただけで行かないなんて言ってない」
そう言ってレッドはそっぽを向いた。……これは本当に嫌われている感じなのだろうか?え?マジで?マジなの?俺泣いちゃうよ?え?とか心の中で訴えてもレッドに伝わる筈もなく。それどころかレッドは俺の方を見ようともしない。
「…………レッド?」
「…………」
返事がない。
「レッドさーん……?」
「…………」
何も反応してくれないためレッドの視界に入ってみる。
「……お前な…………」
レッドの瞳は物凄く輝いていた。最新のおもちゃを与えられた子供のように輝いていた。
要は、見たこと無いポケモンを目にした引きこもりのテンションが上がりまくっているという事である。
「グリーン」
「どうした?」
そんな引きこもりに珍しく話しかけられた。態度が嫌々ではないところに感動を覚える。
「バトル」
……その代わり口数が激減していた。俺がこいつと仲良く会話出来る日は再び訪れるのだろうか。
「そうは言われても、チャンピオンズトーナメントはまだやらないみたいなんだが……」
どうやらまだ人数が集まらないらしい。その上、招待されたトレーナーは他のトーナメントには出れないという規定がある。つまり、レッドはしばらくバトルお預け状態なのだ。
しかし性格的に、こうなるとバトルするまで気が済まないレッドである。
「…………!ライモンシティ!」
突然、レッドはハッとしたように顔を上げた。
残念ながらイッシュを把握出来ていない俺はレッドが何を言いたいのか全く分からないのだけれど。
「……行くよ、グリーン」
「は?えっ?行くってどkぐえっ」
フードを掴まれ、物凄い力で引っ張られた。おかげで首は締まるし、無様に倒れるし、散々である。何なんだこの馬鹿力は。
「レッド……首、首…………」
「五月蝿い」
窒息の危機を伝えようと試みるも、一言で切り捨てられた。
こうなってしまってはもうどうしようもない。俺は色々と諦めた。
「分かった!分かったから手を離せ!」
突然手を離されて頭を思い切り床にぶつけても、俺は文句一つ言わないでとうとう走り出したレッドの後を追いかけた。
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「バトルサブウェイ……?」
全力で走って辿り着いた場所はそこだった。
いやしかし全力で走りすぎてわき腹が痛い。なかなか乱れた息が落ち着かない。
「早く行くよ」
息が切れているのはレッドも同じなのだけれど、レッドはずんずん進んでいった。まったく、こいつの身体はどうなっているのだろうか。
二十連勝すると、サブウェイマスターたる人物が現れるという話を聞いた瞬間に、レッドの目の色が変わった。強いトレーナーに勝ちたいという野心はまだ持っているらしい。……俺も同じだけれど。
「……グリーン」
「はは、お前と組むのは初めてかもな」
こいつとはまだ戦えない残念さと、こいつと一緒に戦える喜びを感じながら俺達は電車に乗り込んだ。
嗚呼、イッシュに来て良かった。