「何かって……人ですか?」 「うむ……人っぽい魔力を感じるですだ…………」 これでまた敵だったらいよいよ僕らはお終いだ。戦える人が誰もいない。というか既に手詰まりだ。この一方的に袋叩きにされている状態をなんとかしないと…………!
「…………っ、すみません、追いつかれました」 空美さんが半ば絶望的に言った。戦いでの疲労で、空美さんは上手く空間移動が出来ないでいるようだ。 「とりあえずここで粘るしかないね……ッてい!!」 唯一元気と言っていいのか分からないけれど、気流子さんが立ち上がった。 そしてそのまま防御と攻撃を一気に展開し始めた。 襲い来る銃弾はバリアで弾き返し相手に銃弾の雨を降らせつつ、無数の水の弾も敵に浴びせる。 これは凄い。凄い……けど 「気流子さん……魔力の方は?」 「考えてる余裕がないかなっ」 「…………」 結局ピンチだった。 せめて、まだ少し魔力がある僕が動ければ…………!
「うわぁぁぁぁ、頑張れ僕の身体ぁぁぁぁ……」 「……無理に動こうとすると、一生その足使い物にならなくなりますよ」 「え?」 動こうとした僕に、馬鹿ですか?と冷たく言う聞き覚えのない声がした。 というか、みんなの中心に堂々と見たことのない二人組が立っていた。男と女で、二人の身長差はかなり激しい。
「え……誰、ですか?というか何故この中に!?」 空美さんが人見知りを発動しそうになっていた。 空美さんが知らないということは恐らく組織の人間では無いと思うのだけれど……。でも、バリアを張られていて外は銃弾戦の中、誰にも気付かれずにここにいるというのは、ただ者ではない。 いやしかし、この人たちが来たときから妙に僕は落ち着いているのだけれどこれはどういう事だろうか。
「私達が誰かなんて今はどうでも良いです。そんな事よりも、お姉ちゃんは!?」 さっきも喋った女の子が言った。男は無言でどこか一点を見つめたまま動かない。 二人とも黒髪で、女の子の方は素晴らしいまでの左右非対称カットだ。右側はサイドテールにしているのに、左側は肩まで程のショートヘアーである。なんちゅう髪型だ。 女の子はお姉ちゃんと言ったのだからきっと誰かの妹なのだろうけれど、みんな顔を見合わせている。誰の妹でも無いようだ。 それじゃあこの人たちは一体…………
「…………いた」 と、ここで男の方が口を開いた。 男が指差した先には静かに横たわる猫さん。
「……猫さんッ!?」 え?猫さん?猫さんの妹?猫さんに姉弟なんていたのか?え?でもこの二人黒髪で猫さん金髪ですよね?え?え? なんて僕の疑問を余所に女の子は猫さんに駆け寄った。
「心臓……は、止まってる…………お姉ちゃんは、一度生き返ったりとか無差別に殺戮とかしてたりしましたか!?」
…………。 一体この子は何を言っているのだろうか。 言っていることはかなり不謹慎なのだけれど、表情が真剣すぎてなにも言えない。 どうやらそれは他のみんなも同じなようで、何を言おうか悩んでいる様子だった。 「無言……って事は、違うって事でいいんですね?なら、さっさと帰りましょう。お姉ちゃんを戻します!」 女の子は僕らの反応に対し、複雑そうだけどどこか嬉しそうな顔で言った。 「……さっきから、お前は一体何を言っているんだ」 そんな女の子に小坂君は苛立ちを隠せないようだ。立ち上がって正面から向き合って言った。 ……無理もない。致命傷を負った猫さんを介抱し、その死を確認したのは小坂君なのだから。 まだ実感もないし認めたくもないけれど、こんな状況でなければ泣き叫びたい気分だ。……それなのに。
それなのに、この子は今、なんて言った? 猫さんを戻すだって?
まるで、
まるで猫さんを生き返らせられるみたいな言い分じゃあないか。
「話は後です、早く転送魔法を!」 「だから、どういう事なのか説明しろよ!そもそもお前等は誰なんだよ!!」 「だ、か、ら、そういう話は後でって…………!」 「……ちょっと流亜は黙ってろ」 苛立つ小坂君に合わせて語調が強くなっていく女の子を、ずっと無言だった男が止めた。
「……俺達はそこにいる、猫神綾の姉弟だ。俺は裕……こっちのアホが流亜だ」 「アホとは何さー!!」 「……流亜は黙ってろ。……今は説明を省くが、訳あって姉貴は二回殺さないと完全には死なないんだ」 どうやら本当に姉弟らしい。よく見てみれば顔が似てる気もしなくもない。何より、雰囲気が似ているような気がした。
それで。 二回殺さないと死なない?一体どういうことなのだろうか? 「……で、でも此奴の心臓は、もう……!」 「……止まっているだろうが、今すぐ安全な場所へ帰れればなんとか出来る……あんたさえ協力してくれれば、な」 頼む。と、裕君は小坂君を真っ直ぐに見て言った。 「…………わかった」 そんな態度に、小坂君は納得した。
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