敵の半分を切り崩したであろう時、妹の叫び声が聞こえた。

「来ないでッ!!」
「っ!?……ぐう!」
余裕の無い声色から、妹が危険にさらされているのだということを予測し、つい振り返ってしまった。
その一瞬の隙も逃さずに、生き残っていた黒ずくめの一人が私の腹部を貫いた。
ライフルに隠しナイフを仕込んでいたのか……ナイフが抜かれると同時に私はその場に倒れ込む。
「これは……毒」
神経毒の一種だろう。手足に若干の痺れが見られた。
「雪乃さん!」
「いいから……君は黙って隠れてなさい」
実は近くに仁王君が隠れている。
幻覚による空間遮断なのだけれど、私の意識がある間は危険が及ぶ事はないだろう。
気流子達が隠れていたあのドームと同じものだ。

じわじわと広がる痺れ。傷口が熱を帯びているのは毒の所為でもあるのだろう。
仁王君がくらっていた毒と同じものだとしたら、やはり私は組織に騙されていたのだと再認識せざるをえない。

組織は一体何を企んでいる?狙いは嘘誠院音無だけではないのか?
ぐるぐると頭を巡るそんな疑問に答えてくれる人間などいるはずもなく。

残りの敵は幻覚で足止めしつつ、気流子の様子を伺うことにした。
振り向いた瞬間、私は信じがたい光景を目の当たりにする。

―― 忌々しい過去に見た、あの後ろ姿。
私から見れば、不気味に笑うあの姿は死神にしか見えなかったのだけれど
……どこから現れたのか、その死神が私の妹ににじり寄っているじゃないか。


「妹に触るなぁぁぁぁぁぁぁ!!」
気が付けば負傷した事も忘れ、男に斬りかかっていた。
「雪乃さん!?」
「危ないお嬢さんですねぇ」
「くっ……」
斬撃は、どこからともなく現れた黒ずくめに止められてしまった。
力任せにけり飛ばすと、九十九雷同様気味の悪い動きでこちらに向かって来る。
毒で手足が痺れ上手く動けない……死ぬのかもしれない。そう思った

「ああ、駄目ですよぉ」
そう言って男が手を叩くと、黒ずくめの動きがぴたりと止まった。
「皆さんが手こずっていると聞いたので、様子を見に来たんです。フフフフ……もう、帰りますけどねぇ」

私が手を出してしまったら彼らに悪いので、と男は私がなぎ倒した黒ずくめの山々を眺める。すると次々と起き上がるじゃないか。なんてタフなんだろうか、信じられない。
あの数を手負いで、毒も食らっているというのにもう一度相手するなんて、無理だ。
しかも傷は結構深いらしく、血がなかなか止まらない。激痛だ

「うっ!?は……離してっ!」
私が呆然と敵を眺めている隙に近づいたのだろう、振り向くと男は気流子の髪飾りを剥ぎ取ろうとしていた。
…………まずい

「空美ちゃん、あれを止めて!」
ノリでちゃんづけしてしまった。まあいい、羞恥心に構っている場合ではない。
「爆砕掌!」
「……っとぉ!冷や汗ものですねぇ、コンクリートが粉々ですよぉ」
素晴らしいと言いたげに手を叩く男。昼夜空美は困惑した様子だ。

なにはともあれ、気流子から男を剥ぎ取る事に成功した。
あとは私が仕留めることが出来れば……

「……あ、れ」
途端に体に力が入らなくなってしまい、私はそのまま床に座り込んでしまった。
動いた事によって毒が回ったのかと思ったけれど、どうやら違うようだ。

「これ、なんでしょうねぇ」
そう言った男の手には気流子の髪飾りが握られていた。
攻撃の拍子か、少し亀裂が入っている。まずい、……凄くまずい

「か、えせぇぇぇぇぇ!!」
私の意思を読み取ったか、気流子が男に掴みかかる。
が、傷口が開いてしまって奪い返すまでには至らなかった。
気流子の腕は空を切りそのままコンクリートを破壊した。

「ハハハハハハ……手負いだというのに素晴らしい腕力だ。呪いでさぞ窮屈でしょうねぇ」
「いった、い……っ返せ!返せ返せ返せ返せ返せ!!」

うずくまった気流子の背中を男が踏みにじる。
昼夜空美はと言えば、状況についてこれていない様子だった。
確かに傍目から見れば髪飾りを取り上げて喜んでいる中年と、それを取り返そうと必死な少女にしか見えない。

「おっと貴重な研究サンプルが」
わざとらしくそう言ったかと思うと、髪留めをコンクリートの床に思い切り叩きつけた



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