「ぐっ……!?」
「これで終わり?」
思い切り腹をければ、小さな体が部屋の隅まで飛んでいく。

「……手加減なんてしていたから!」
少し戯れ事に付き合うだけのつもりでいた。
出会ったばかりの人間に命なんてかけられないし、どうなろうが正直知ったこっちゃない。

そう、チャイナ服の少女が倒れても、緑の髪の少年が連れさられていったとしても、それを阻止しようと頑張った少年がいたとしても。

妹は隠れているし、綾は私がついていれば大丈夫……そう思っていた。
誰だろう、そんな甘い考えを持っていた女は。どこの誰だろう

記憶の限り誰にでも優しかった私の親友は、倒れた少年を庇って致命傷を負った。
もう助からない、あるいは既に死んでしまったかも知れない。
考えれば考えるほど、体が怒りに震えた。

「……がふ」
「絶対許さない……地の果てだって追いかけるわよ。……ああ、武器さえあればって考えてるでしょう?……受け取りなさい」

少女が飛んでいった壁際まで歩き、そのまま横たわる少女に馬乗りした。
これでもう動けないだろう。昼夜空美のように空間移動ができないのなら
「……!?」
「これで、綾を刺したんでしょう?私も刺してみたら?させないけれど。ああ、出来ないだろうけれど、に訂正するわね。昼夜の片割れ……海菜といったかしら?可愛らしい名前ね……さぞかし親に可愛がられたことだわ」

うずくまる相手の、喉に刺さる既のところで刀を止める。
ああ、今にも刺さってしまいそうだ。親友の仇の命を今、私が握っている。
いたいけな少女の顔が恐怖の色に染まったとして、私が満たされることはなかった。
多分、綾が助からない限り、私の怒りは治まらないだろう。

妹に聞いてみたいものだ。嘘誠院音無は、命を張ってまで助ける価値のある男なのか
性別が男というだけで偏見を持つ私にはきっと理解出来ないのだろうけれど。それでも

「綾を……返せッ!!!」
怒りと悲しみの混じる声でそう叫び、昼夜の喉を刀で貫こうとした瞬間。

「―― 駄目ぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
私の体は弾き飛ばされた。
同時に、瓦礫の影に隠れる人影が複数見えた。ライフルを持っているのは気のせいじゃないだろう。
今海菜を殺していたら、海菜諸共蜂の巣になっていたかも知れない。
……感謝なんてしない


「はぁ、は……雪乃さん……なんて事を……」
「……邪魔をしないで頂きたいものね。私は今、怒りに震えているの」
見ればわかります、と昼夜空美。その後ろからは妹がゆっくりと歩いてくるのが見えた。

きっと笑顔で"帰ろう"とか手を差し伸べてくるに違いない。
「お姉ちゃん、帰ろう」
「断る」
予想通りだった。流石に笑顔はついてこなかったけれど。
その代わり私が笑った。鼻で。

帰ったところで、綾が死に近づいていくのを見届ける事しか出来ないじゃないか。
そんなもの、見たくない。
周囲のすすり泣く声だって聞きたくない。

淡々と駄々をこねる私を余所に、昼夜空美は海菜を抱き起こし医療班を呼んでいた。
…………余計なことを

「駄々をこねないでよ、年上のくせに」
「早く戻りなさいよ、妹のくせに」
綾がいない今、私達姉妹の会話なんてこんなものだ。
橋渡しをしてくれる人がいない限り、私が他人と仲良しこよしなんてできるわけがないんだ。
……そう思うと少し寂しいじゃないか。

「お姉ちゃん、猫さんがね、」
「うるさい帰れ、いや戻れ」
帰れでも戻れでも、どっちでもいいか。
綾が死んだと伝えに来たのかも知れないけれど、今は無視させて貰う。

「聞いてよ、お姉ちゃん!」
「瓦礫の影の……出てきなさいよ」
妹の姿を尻目にそう叫ぶと、黒ずくめの人間が次々と瓦礫から顔を覗かす。
「!」
この黒ずくめの服装には見覚えがあった。
気流子を見れば、私と同じ様に目を見開いて眉間に皺を寄せている。
信じられない、といった表情か。

……もしかすると近くにあいつがいるのかもしれない
「十分に注意して、さっさと戻りなさいよ」
「あ……待って、お姉ちゃん!」

隠し武器を素早く組み立て、先端の刃で思い切り切りつける。
切り捨てても切り捨てても湧いて出てくるのだから、まるで虫だ。

「虫に同情なんてしないわ……好都合」






「お姉ちゃん!」
私が力いっぱい叫んでも、お姉ちゃんに届く事はなかった。
早くしないと猫さんが死んでしまう。一刻も早くお姉ちゃんと相談がしたいというのに。
肝心のお姉ちゃんは聞く耳を持ってくれなかった。
どうしてああも意地っ張りになっちゃったのかな?昔は……今はどうでもいいか

「第三支部長!」
突然空美ちゃんがそう叫んだ。
振り返ると空美ちゃんと、空美ちゃんに対峙するおじさんの後ろ姿があった。
ちょっと待ってよ、どこから出てきたのこの人。

背筋に悪寒が走る。

「どうしてこんな場所に……九十九雷さんは」
「フフフフ……お久し振りですねぇ、昼夜空美さん……そして」

雨宮けろこさん。と、男は言った。
こちらを見るその目は、記憶の隅にずっと刻まれていたものと一致した。
この声、この顔、この寒気……見覚えがあるでは済まされない。


「けろこ……?この方は気流子さんですよ」
「いいえ、けろこさんで間違いないですよぉ……」
気持ち悪い笑みを浮かべながら、こちらにジリジリと近づいてくる。

「こっ……来ないで!!」
力の限り叫んだ。



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