――……ここはどこだろうか。

――水の中?

上手く、呼吸が出来ない。
苦しい。

身体が重い何かで縛られているようで、何処かへ、ただひたすら沈んでいく感覚がする。

視界は、一面の闇で何も見えない。


――パキィンッ…………


何かが、砕ける音がした。

それが合図となり色の洪水が起きてそして――…………





「う…………」

激しい頭痛に、僕の意識は覚醒させられた。
「……あれ、生きてる…………」
全く身体は動かないけれど、切られたアキレス腱の激痛はそのままだし、激しい頭痛がプラスされている。
痛いと言うことは生きているということ。

『死滅ノ瞳』《カウントダウン》は、僕が師匠に教わった最強にして最凶の、多分禁忌に近い魔術だ(いや、絶対禁忌だ)。
右目を見せただけで、発動する魔術。
右目をみたものは、魂を滅せられる。成仏とか、浄化とかではなく、純粋な破壊。魂は無に還る。
だからもう、アリスさんの魂はこの世には存在していないはずだ。

この魔術は、一つの魂を滅するのだからそれなりの代償が僕に返ってくる。師匠には『死ぬ可能性が高いから使うな』とすら言われた。
……なんで僕はそんな魔術を教わったんだっけかな。…………ああ、右目が勝手に呪われて、そんな魔術専用のものになったんだったか。
詳しい話は忘れた。
召喚士になる前の話だ。

「…………眼帯、しないと……」
誰かが右目を見る前に眼帯をしないと、今度は僕も死ぬ。それに、そう簡単に魂を滅するのもどうかと思う。
……不思議とアリスさんには罪悪感を感じなかったのだけれど。
アリスさんは、決して生きているわけでは無いからだろうか。

久しぶりの右目の視界は、真っ赤に染まっていて何も映してはいなかった。
そういえばさっきから僕と密着している床の顔の辺りに血だまりを作っている。
……血涙を流しているのか。
仕方がない、右半身を中心に僕の身体は床と大の仲良しになってしまったようだし、右目を閉じたまま頑張るとしよう。……何を頑張るのか分からないけれど。

「……まさかお前、アリスを倒したのか…………?」

上から、海菜さんのそんな声が聞こえた。
「やはり危険だ、嘘誠院音無お前は――」
「行かせないよ、お姉ちゃん!『昼夜流格闘術、高下回!!』」
丁度僕から海菜さんと空美さんが見えるのだけれど、空美さんが仙人のみたいな動きをしていた。逆立ちの体勢で、カポエラだろうかそんな感じの足技があったと思うが、半回転と身体の捻りで二発の蹴りを繰り出していた。
残念ながら、海菜さんにヒットしなかったのだけれど。
いやはや、空美さんってこんなにアクロバティックだっただろうか。

空美さんの蹴りを交わした海菜さんは、バック転で距離を取ると、日本刀を構えて一気に駆け出した。

……倒れている僕の方に。

……あれ?これは、僕は死ぬ?
アリスさんを倒したのに?

しかし、身体はぴくりとも動かなかった。


そこから一瞬で起きた出来事を、僕はこの目で確認することが出来なかった。認識出来なかったが正しいだろうか。
「音無君ッ!!」
そんな、僕の名を叫ぶ猫さんの声が聞こえた気がする。

次の瞬間には、海菜さんの日本刀は何かを貫いていた。
「…………え?……うそ……だ…………」
しかしそれは僕の身体ではなく、
「…………ねこ……さん…………?猫さん……ッ!?」
「はは……間に合った…………ね」
日本刀で身体を貫かれて、吐血しながら尚も僕に笑いかける猫さんだった。

そのまま猫さんは、重力に逆らわずにドサッと倒れた。

「猫神一族の生き残りか……命拾いしたな嘘誠院音無。もう、私のこの刀は使えないようだ」
海菜さんがそう言うと同時に、日本刀がピキピキと音を立て始め、そして砕けた。
「猫さんッ!!」
そんな光景はどうでもいい。そんな事より猫さんだ。

「安心しろ、猫神一族は一度目は死なない。……理性を失うだろうが」
「……じゃあッ…………猫さんが動かない理由はッ…………!?」

海菜さんと空美さんの会話がよく聞こえない。……違う、聞きたくない。

「猫さんッ!!誰か小坂君を!!早く治療を!!」

どうして。
どうしてこんな時に限って身体が動かないんだ。


「早くッ…………!!」


頭の何処かでは分かっているはずの現実を否定して、僕は治療を求め続けるしか出来なかった。



×
「#甘々」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -