「あのー……えーっと、猫さん?」 どういうわけか置いてきぼりにされてしまった僕である。この家は僕の家ではなかったのだろうか。どうして、昨日来た居候と今日来た謎の少女に主導権を握られているんだ、僕。 ……いや、ここはポジティブに考えるべきだろうか。これで猫さんへの告白の為の準備が出来ると。そう考えたら素晴らしいことなのかもしれない。ヘタレには嬉しい時間だ。……いや、別に僕はヘタレじゃないのだけれど。しかも、あまりいいことでは無さそうな気がするのだけれど。 「音無君? ……は、なんか忙しそうだから僕が作るよ。気流ちゃんはなに食べたい?」 猫さんの手料理だと!? さてどうしたものかと考えていたら、思考があっという間に猫さんの一言に持っていかれた。取り乱すな、僕。落ち着け。落ち着くんだ。 別に猫さんの手料理が食べれるだけじゃないか。別になんとも……なんとも……ふふふ。 「え? あの……猫さんが作らなくても…………」 ちょっと僕が夢の世界へ旅立っていると、気流子さんがそんな事を言い出した。なんていうことを言うんだ。空気を読んでくれよ! 僕の夢を奪わないでくれ! ……こほん。冷静に……冷静に…………。 「別に、猫さんが作ってくれると言っているんだから、作って貰えばいいじゃないですか。ねえ? 猫さん」 冷静に、冷静に(強調)猫さんの手料理をお願いした。必死な訳じゃない。 すると気流子さんは泣きそうな目でこちらを向くと、「ワトソン君は客に料理を作って貰うような人間なの!? 猫さんを働かせるの!?」なんて言ってきた。 くっ……そんな事を言われたら、猫さんの手料理を諦めざるを得ないじゃないか………… 「なんて、簡単に諦めてたまりますか!」 少し幼い少女に涙目で訴えられても僕は折れない。僕は強い。僕は夢に生きるんだ! 凄くダメな方向に強い意思を持っている気がするけれど、僕の姿勢が揺らぐことはないだろう。久しぶりに他人と会話をするものだから、テンションが上がっているのかもしれない。 「やーっ!!」 「ぐべぁっ!?」 強い意思を見せつけていると、突然気流子さんが跳び蹴りをかましてきた。理不尽だ。初対面でこれは酷い。しかも、顔面に蹴りがクリーンヒットした。気流子さんはかなりの小柄な筈なのに、僕は吹っ飛ばされ、壁に頭をぶつけてやや脳震盪気味になる。どんな力だよ。 「ワトソン君!! 猫さんの料理は駄目だよ!」 僕を吹っ飛ばした気流子さんは僕に近付くなり僕の肩を掴んで小声で叫んだ。 とりあえず必死であることは伝わった。が、意味はよく分からなかった。
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