「あはっ……格好良く宣言されちゃった」
僕の宣言に、アリスさんは楽しそうに笑った。 「ええ。どうやらあなたを倒せるのは僕だけみたいですからね……『神姫四札』《アリス・トランプ》!!」 僕は、魔力で作られた53枚のトランプをアリスさんに一斉発射した。 このトランプはターゲットに突き刺さるまで自動追跡を行う。 「手裏剣みたいなトランプかぁ……でも、私には痛覚が無いんだよ?」 「はい。だからこそやるんですよ。これは貴女にしか出来ない技ですから」 ターゲットはアリスさんの両腕。 右腕に27枚、左腕に26枚のトランプを設定している。
「おお……結構しっかり刺さってる……しかもかなり重いね。これが狙い?」 トランプは鎖と同じ素材で出来ている。だから、53枚は相当な重量になっているはずだ。これでアリスさんは速く動けない………… 「なんてことは有りませんよね!!『回宙刃』《ジャグリング・ナイフ》!!」 二本のナイフを八本のナイフで受け止める。トランプのせいでかなり重かった。 「分かってるならこのトランプは何のため?自分で自分の首締めちゃってばっかじゃないのー?」 クスクスとアリスさんは笑った。嗚呼、腹立たしい。 「いいえ、まだこれからですよ……『鎖ノ罠』《チェーン・トラップ》!!」 「またくさ…………り?え?」 いつもは僕の周りにある魔法陣から表れる鎖が、アリスさんに突き刺さったトランプから出て来た。 「……師匠直伝の合わせ技です。流石に、53本の鎖からは逃げられませんよね?」 鎖でアリスさんを雁字搦めにしながら、一本の鎖をアリスさんから僕の方へ伸ばす。
「ちょっと巻き込まれてください!!」 その鎖を掴むと、ハンマー投げの要領でアリスさんを投げ飛ばした。
……仙人が、巨大な岩を落としまくり、それを爆発させている中へ。
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」 流石のアリスさんもこれには悲鳴を上げた。 痛覚が無くて、死なないアリスさんにだからこそなせる技である。 アリスさんはそのまま爆発に巻き込まれて吹っ飛ばされ、僕の後ろの壁にぶち当たった。 「……びっくりしたぁ…………」 「……今のをびっくりしたで片付けられるとなかなか心が折れますよ……『鎖ノ嵐』《チェーン・ストーム》!!」 「わわわっ!?」 痛覚が無いと言うのはなかなか厄介だ。僕は動かれる前に追撃をした。 アリスさんを雁字搦めにしている鎖が縦横無尽に動き出し、とうとうアリスさんの両腕を砕くことでおさまった。 両腕を無くしたアリスさんはそのままべちゃっと床に落ちた。 「うわー……えげつない…………もしかして、私の魔力切れを狙ってなぁい?」 あの夜のように土で鎧……両腕を作り、立ち上がりながらアリスさんは言った。 「バレましたか」 構え直しながら僕はアリスさんと対峙する。 痛覚無し、魔力で破損の再生が可能のアリスさんは確かに無敵だ。しかしそれは魔力があればの話。 誰だって魔力は無限ではない。 その唯一とも言える弱点を僕はひたすら叩くことにしたのだ。 「倒すって、カッコ良く宣言してたのは誰だっけ?」 「…………」 見下したような笑み。 まあ、僕の発言は華麗なまでに矛盾しているのだから仕方のない話だ。 アリスさんを倒す方法は確かにある。多分、僕にしかできない方法が。 でもそれは、奥の手であって出来ることなら使いたくはない。
「……身体を砕き続ければ、流石のアリスさんも動けなくなりますよね?」
それを隠すように、僕は笑った。 「そんな事、出来たらね……ッ!」 アリスさんは楽しそうに笑いながら駆けだした。
――……速い。
さっきとは、比べ物にならないくらいに。 「……魔力で強化されているから当たり前ですね」 それは僕も同じなのだし。 漸く慣れてきたのか、手足がやっと思い通りにスムーズに動くようになった。
ガキィンッと、耳障りな金属音が何回も響く。 「あははっ、なんか前よりも強くなぁい?」 「……もう、何回も刺されるのは嫌……ですからね」 魔力を注がれたお陰で、僕の中には膨大な魔力が渦巻いている。それは今も僕に痛みを与え続けている訳だけれど、同時に安心感も与えていた。 魔力の心配をしなくていい。これなら、魔力が底をつくことは当分無さそうだ。
「後は僕のスタミナですね……ッ『鎖ノ罠』《チェーン・トラップ》!!」 「鎖好きだねえ、君!!」
僕を縛る鎖から伸びた鎖はアリスさんを貫いた。 「うああっ…………」 それと同時に、鎧と一体化しているアリスさんの巨大な爪が、僕の左肩を抉った。 「……ふ…………『増殖』《スライム》!!」 左肩を押さえて後退しつつ、アリスさんを貫いた鎖をアリスさんの中で増殖させる。既に僕とは切り離してあるため、十分な間合いを取ることができた。 「なにこの鎖ッ気持ち悪い!!」 連結をどんどん増やしていく鎖は、アリスさんの様々な部位を貫いた。 「さあ、全身砕けて下さい……『鎖ノ嵐』《チェーン・ストーム》!!」
鎖を増やし過ぎたのか、アリスさんの姿は見えなくなった。嵐が収まる頃には、アリスさんの身体はかなり細かく砕けているだろう。 ……ここに来る前に、葉折君や空美さんにレクチャーしてもらって良かったと心底思った。 まさかこんなに上手くいくなんて。
と、ここで
「嫌だッ……あんな所に行くぐらいなら死んだ方がマシだ!!」
そんな、葉折君の叫び声が聞こえた。
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