「ぐ、うう…………っ」

痛い。
いや、痛いどころの話じゃあない。
頭が割れてしまいそうだ。
全身が、このまま木っ端みじんになってしまうかもしれない。

「……副作用が来たのか兄者」
「哀れだな、兄貴。薬の投与が出来ていなかったから」
「「月明は全員がモルモットだと言うことを忘れたのか」」

二人の声が、冷たく頭に響く。
激痛の余りとうとう僕は立っていられなくなりうずくまっていた。

「今すぐ帰ろう、兄者」
「帰れば楽になれる」
「今の戦いは上層部に監視されている」
「兄貴が殺される事はまず無いだろう」
「「さあ、帰ろう」」
僕を見下しながら、二人は言う。
帰る?あの家に?あの、研究所に?
……冗談じゃあない。
「嫌だッ……あんな所に行くぐらいなら、死んだ方がマシだ!!」
あんな所、家じゃない。
「でも、兄者は副作用が出ている」
「薬を投与するためにも帰……」
「僕が今帰る場所は小坂君の家だ!それ以外になんかない!!」
痛みを忘れるように、声を張り上げる。でも、残念ながら呼吸が苦しくなっただけだった。
結構な大声を出してしまったけれど、みんな戦闘中だ。多分聞こえていないだろう。
……こんな話、聞かせたくはない。

「…………はあっ………はあっ………くあぁ……」
痛みは酷くなっていく一方だ。一体、僕はどうすればいい?
「……そこまで酷い痛みか兄者」
「もしかして発作が今まであったんじゃないのか兄貴」
「バカだな、兄者」
「そろそろ幻覚が見えるんじゃないのか兄貴」

段々、二人の声が遠退いてくる。
意識は有るのに、音が聞こえない。これは…………?
「おと……なし?」
あの人形遣いと戦っている筈の音無が何故か目の前に立って僕を見下している。
「あれ……?音無、もうあの人形遣いは……?」
問いかけても反応がない。虚ろな目で僕を見たまま、音無はナイフを取り出した。
「……ああ」
違う。
これは幻覚だ。
そういえば、薬の副作用の最終段階は幻覚だった。
「行きたく……ないよ…………」
でも、僕は多分薬の投与を受けなければ幻覚で狂ってみんなを傷つけ始めるだろう。多分、理性も無くなる。確か上層部が月明から裏切り者を出さないために作った薬だ。
継続的打たなければ症状が出る。

……そう、僕みたいに。

「……糞が」
あんな一族、いつか潰してやる。そう思いながら僕は注射器を作った。
「……ごめん、音無」
僕を殺そうとする幻覚に謝罪しながら、僕は自分の左腕に刺した。
葉のエキスから作り上げた、麻酔だ。僕はもう、月明に戻るしか道を残されていない。
「……甲骨、五樹………」
「正気に戻ったか兄貴」
「まさか自分で戻るとは流石兄者だ」
二人は満足そうに笑っていた。

「僕を、月明本家に連れていけ。今すぐ、に…………」

麻酔は直ぐに効いてきた。
「分かった」という二人の声を聞きながら、僕は微睡んでいった――……





猫さんが雷ちゃんを殴ったと同時に、アリスさんが動き出した。
「葉折君に機能を停止させられたんじゃ無かったんですかっ……?」
重い斬撃を鎖で受けながら、僕は訊いた。
あの夜、確かアリスさんは植物が複雑に絡み合うオブジェと化していた筈だ。
「分かってないなぁ、私は魂だけが生きていて、器はいくらでも変えられるんだよっ!!」
「くううっ!?」
鎖が一本破壊された。どんな力してんだこの人。
一つだけ言えるのは、前よりも確実に強いということ。

「これはもう、一人じゃ無理ですね……『狂道偽化』《キョウギ》召喚!!」
二度目の狂偽の召喚をした。
狂偽は召喚された瞬間に僕の意思を汲み取ってくれたのか、ナイフを片手にアリスさんの背後からアリスさんに飛びかかった。
「おおっとぅ!?でもざーんねん、私は人形遣いなんだな!!」
狂偽のナイフをアリスさんは紙一重でかわすと、五体の人形を繰り出した。
一気に二対六。一人三人を相手にしなければならないけれど、一人はアリスさんだ。とても保ちそうにない。

「すみません音無様!!私は人形五体を相手にするのが手一杯です!!」

どうしようかと悩んでいると、狂偽のそんな叫びが聞こえた。
狂偽の方を見てみると、既に人形三体を鎖で雁字搦めにして、残り二体を相手にナイフを振るっていた。

そうだった。

狂偽は元々、天才の狂偽兄さんだったんだ。
それに、地球を破壊できるほどの力を持っている。
「任せましたよ!狂偽!!」
なんて頼もしいのだろうか。
人形は狂偽に任せて、僕はアリスさんと向き合った。
「あれが問題の召喚獣か……自立しちゃってるし、私の人形何時まで保つかな…………」
アリスさんは苦笑いをしていた。

「人形の前にあなたを倒しますよ」

僕は、ビシッとナイフをアリスさんに突きつけて、宣言した。



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