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猫神が動いたと同時に、五樹と甲骨が動き出した。 しかしその動きは僕にとっては遅く見える。
バカだなぁ。
仮にも僕は兄なんだ。 弟如きの攻撃を喰らうはずがない。
ビタンッ!
「あ、兄者……」 「卑怯だ兄貴……」
とりあえず床から植物のツタを出現させて二人の足に絡ませてみた。 うん、此処まで綺麗に転ぶとは思ってなかったな。 「僕はお前たちの兄なんだよ?戦場なら卑怯何も無いよ」 そのままツタを成長させて二人を雁字搦めにする。
「ってわあぁぁぁぁっ!?」 「「ギャァァァァッ」」
突然隕石が降ってきた。 岩だし、燃えてるし多分仙人の仕業何だろうけれど…… 「デカすぎるしこんなの乱発するなよ……」 一体あの子の魔力はどうなっているんだ。普通こんなの乱発したら直ぐにバテるぞ。
「ほ、炎で助かった……」 「危うく燃えるところだった……」 「げ」 どうやら今ので僕のツタが燃えてしまったらしい。 どうせだったらこの二人ごと燃えれば僕は音無の手伝いが出来たのに。 「よし、適わない事は分かった」 「だから兄貴、平和に話し合いをしよう」 「「何故女装を始めた」」 …………そこかよ。 話し合いって僕の女装を止めさせる説得なのか。そんなアホな。 周りはシリアスに戦闘しているのにどうして此処だけそんなアホな会話をしなきゃならないんだ。
「女装……ねえ……」 元々V系のバンドに憧れてっていうのもある。前髪はその影響もあるし。 でもやっぱり一番は………… 「……音無に振り向いて欲しかったからかな」 「「奴を殺せぇぇぇぇ!!」」 「いや、させないからね?『夜葉桜』」 桜と葉が舞い二人を襲う。しかし二人は襲い来る桜と葉全てに正しい対処をした。 「手の内がバレているのは兄貴もだ『暴風龍』!」 「戦うなら本気を出してくれ兄者『砂嵐』!」 砂嵐を纏う風の龍が、全ての桜と葉を巻き上げどこかへ消えていった。ちぇ、駄目か。 「まずその気持ち悪い化粧を落として貰おうか!食らえ!」 「女っぽく見えるのがムカつくんだ兄者。大丈夫、タオルはある」 「わぶぶっ!?」 顔に何やら水をぶっかけられた。この水圧は恐らく水鉄砲だろう。どこから取り出したんだそんなもん。 甲骨からタオルを受け取り顔を服を拭う。化粧は完全に取れていた。 「普通タオルで拭くもんじゃ無いけどね……まあいいや、僕の化粧を落としたってことは、本気で殺り合うつもりだね?」 「「当たり前だ」」 「兄貴は家に背いた」 「殺せとの事だ」 「俺と甲骨を倒せるようなら連れて帰れとも言われた」 「殺す気で行くぞ兄者」 「殺す気でこい兄貴」 二人はそれぞれ大振りのナイフを取り出した。実の兄すら迷わず殺そうと出来るのが月明の恐ろしいところだとは思う。 「……どっちも嫌だよ」 前髪が邪魔だと判断し、結び直す。前髪をオールバックにして後ろの下の方で結んだ。 因みに二人は僕が構えるのを待っていてくれている。変なところで律儀だ。 「『葉力攻装』…………」 ついでに動きやすく服を変えることにした。一応葉で服や武器を自由に形成出来るのが僕の能力だ。 パーカーは白い和服に、ミニスカートは紺の袴に変化させ、造った竹刀を構えた。 一応、剣道をかじっていた僕である。
「……久々に見たな、兄貴の本気の姿」 「そんなに嘘誠院音無が大切か兄者」 「ああ、大好きだからな」 二人はそうかと呆れたように言うと一気に駆け出し左右からナイフを突き出してきた。 「『桜吹雪』」 僕はそれを、桜吹雪で妨害する。 「同じ様な手は通用しないぞ兄者!『砂……」 「分かってるよ」 桜吹雪をどうにかしようとした、五樹のその一瞬の隙に突きを腹に叩き込んだ。 「ぐう……っ」 そのまま突っ込んでくればまだ僕に攻撃出来たかもしれないけれど、この二人は僕の植物に関係する技を恐れている。 だから、隙をつくってそこに竹刀を叩き込むのは簡単だ。 「面」 突きを決めたらそのまま身体を半回転し、今度は甲骨に面を決めた。 海菜ちゃんのように僕が真剣だったら二人はこれで死んでいる。僕なりに実力を示したつもりだ。
「……言ったはずだ兄貴、殺す気でこいと」 面を防具無しで決めたのに、甲骨は怯むことなく突っ込んできた。 「…………!」 それを竹刀で横凪ぎにする事でなんとか回避する事が出来た。危ない、後少しこいつが早かったら刺されるところだった。
「…………うぐっ……」
と、ここで僕は突然の激痛に襲われた――……
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