「大丈夫ですか!?仙人さん!!」
落ちると思った時には何故か空美に抱きかかえられていた。……なるほど、どうやら空間移動で助けられたらしい。 「九十の呪いはこの場を離れれば解けますから、一回離脱しますよ!」 「させないですよ指揮官」 「いいや、離脱します!『空間移動』《トリック・トリック》!!」 「みぎゃっ!?また落とし穴!?」 ……なんだか話が勝手に進んでいくですだ。そんで、いきなり九十の片割れが床に開いた穴に落ちたですだ。 便利な能力ですだなぁと、感心した。
「……む?外、ですだか」 そしてまた、気付けば場所が変わっていた。テレポートは本当に一瞬だから認識があまり出来ない。 やはり殺し屋の腕ですだなと思った。 「……どうですか、仙人さん。身体、動きますか?」 重そうに儂を抱きかかえながら空美が言った。これだけの体格差で体重を預けっぱなしは悪いと、さっきまで身体が動かなかった事を忘れて立ち上がると、すんなりと身体は言うことをきいた。 「む、大丈夫ですだな。直ぐに戻れるですだよ!」 「やっぱり殺す気が無ければ戻るんですね……ああ、仙人さん、九十の二人は自分に触れた場所を呪えるんです。だから……」 「じゃあ手加減無しで殴るなり蹴るなりして気絶させればいいですだな!」 「……え」 キョトンとされた。 多分空美は肉弾戦を控えるよう注意しようとしたのだけれど、生憎儂は肉弾戦の方が強いですだ。 考える前にまず一発殴ってみるのが儂ですだ。 単細胞ですだか?でも、これで今までどうにかなってきたですだ。
「……まあいいです、戻りましょう」 「直ぐ終わらせて音無に加担するですだ!」
儂がそう言い終わる頃には元の場所に戻っていた。本当に速いですだな……。セリフぐらいゆっくりいわせてほしいですだ。 「戻ってきたか……」 落とし穴から這い上がったらしい片割れが忌々しく此方を睨んできたけど気にしない。 「呪われる前に終わらせるですだ。『ドライブ』!」 音無が鎖なら、儂は炎を纏うことが出来る。 オーバーヒートを起こす前に火力全開で終わらせるとしよう。
「指揮官に私達の力を聞いただろうに……バカなのか?」 「いいや、バカじゃないですだよ!!」 「!?消えっ……カハァッ!?」 今の儂の全速力と全力で、九十の片割れに突っ込んだ。無防備な腹には、岩で強化したエルボが綺麗に決まった。 手応えあり。ズルッと片割れは崩れ落ちた。
「ふう、勝負あり、ですだな。次はお前ですだか?」
倒れている九十の後ろでずっと傍観していた海菜に話しかけた。正直、今の一撃で力を使い果たしてしまった感がある。多分この中で一番強いであろう奴を残して、バカをやってしまった。やっぱり儂はバカだったようですだ。 しかしそんな素振りは見せられない。
「…………」 しかし海菜は黙ったままだった。こちらに近付こうともしない。 ……下手に動いたらあの日本刀の餌食になるですだか? 儂は動けないでいた。
「ガッ…………!?」 それは突然だった。 足から、全身がバラバラにされるような衝撃が走りそのまま儂は倒れ込んだ。 「あ……ああああああ…………」 「仙人さん!?」 声が上手く出せない。ビクビクと全身が痙攣しているのが分かった。なのにまだ意識は残っているなんて……中途半端に鍛えてしまったようだ。
「あーれれー、まだ意識があるのかリミッター外したのになぁ……」 倒した筈の片割れが立ち上がった。 あれでまだ起き上がれるですだか……!?どんだけタフなんですだ…………。 「これ、なーんだ。そう、大正解スタンガンでーす」 倒れて動けない儂の横にしゃがみ込みながら片割れは続ける。 「危険過ぎてリミッターをつけざるを得なかった、月明の特注品なのに……随分とタフなんだな」 グッと黒くて小さいスタンガンを儂に押し付けて、九十は笑って言った。
「それじゃあ、おやすみ」
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
どの位電撃を受けていたのかは分からない。 スイッチを押され電撃を受けたとほぼ同時に、儂の意識は闇に沈んでいった――……
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