「さあ仁王君、どこに行けばいいのかしら!?」

僕にラリアットをかましたまま正面の扉を文字通りぶち壊した雪乃は、あいている方の手(左手)で仁王君を引ったくるように抱えた。
僕はと言えば、勢いのまま空中を少し飛ばされ、器用にそれをキャッチした雪乃の右肩に抱えられている。ラリアットをかまされた瞬間に冷静さを取り戻せていなかったら気流ちゃんを落としていただろう。
ううん、相変わらず乱暴だ。
冷静なように見えるだろうけれどこいつはかなり焦っている。これからどうするつもりなのか読んでみたら、吃驚するほど何も考えていなかった。雪乃がこんな行動をとるなんて珍しい。……いや珍しいどころの騒ぎじゃあない。
原因は、実の妹である気流ちゃんがあんな目にあっていたからだろう。そう考えるといやはや、姉妹愛とは素晴らしいなと……
「このまま落とすわよ、綾」
…………おや。
雪乃は読心術を使えない筈なのだけれど、これはつまり…………。
「なるほど、自覚済みか」
「五月蝿いっ!?」
「おおっとお?今僕を落としたら気流ちゃんまで危ないけど?」
「………………!」
いやもう既にラリアットと空中キャッチで、馬鹿力の打撃を二発喰らったのだから僕の意識は相当危ないものなのだけれど。
そんな事を知ってか知らないでか、雪乃は再び仁王君と話始めた。

「それで、逃げ道は?」
まくし立てるように雪乃が聞くものだから、仁王君は慌てて一休さんのようにぽくぽくと考え出した。


「ううん……あ、突き当たりを右に曲がってそのまま直進すれば、広いところに出ます!!脱出はそこからかと!」

どうやら聞いた話だと、仁王君は空気の流れを感じ取る事が出来、それを応用して敵の位置感覚を掴んでいるらしい。元々は、企業が今後どうすればいいのかを決めるのに役立つ能力らしく、その先の未来がどうなるかは分からなくても最善の行動を選択し続けることができるとか。
源氏蛍グループの御曹司はどうやらとんでもない能力を持ったようだ。企業は益々成長していくだろう。

……それにしても、敵の位置を探査できるあたり、彼奴の能力を思い出してしまう。遠距離攻撃にはうってつけでよく卑怯な戦法をしていたなぁ…………。
そして、彼奴を思い出せば同時にもう一人嫌でも思い出してしまう。
僕の、弟と妹のことなのだけれど。
音無君を苦しめつつも強化させた筈のあのスキルは、妹の物だ。本人が扱うともう少し便利なのだけれど……借りたのだから仕方がない。音無君は大丈夫だろうか?彼は確か有り余る魔力で自分を無理やり動かす方法を選んだのだけれど……。

チラッと後ろ(僕からすれば前だ)を向いてみた。

「………………」
絶句した。
音無君は謎の鎖の塊と化していた。分かり易く例えるならば、某ジブリ作品のしし神の成れの果てみたいな…………。
いやまあ、本人があれでいいならいいのだけれど。
ちゃっかり小坂君とか空美ちゃんとかが乗っていたのもいいのならいいのだけれども!
「……適応力と応用力って素晴らしいなぁ…………」
「嗚呼、ワトソン君ね」
思わずつぶやいてしまった。僕に抱えられている為音無君を見ることが出来る気流ちゃんが、そんな僕のつぶやきに反応してくれた。
「たたり神…………」
「気流ちゃんもそう思うかい?」
「色的にも似てるし、もう少しグチャグチャしてたら完璧だと思う……」
「音無君は好きなのかな」
「たたり神を好きな人はいないと思うよ、猫さん……」
あれ。
突っ込まれてしまった。
僕としてはそんなニュアンスの質問をしたつもりは無かったのだけれどまあ仕方あるまい。

「雪乃さん!広いところに出ます!!」
そのまま雪乃の肩に揺られていると、仁王君が叫んだ。と、同時にとんでもない衝撃が走って、気付けば僕は地面と熱烈なキスを交わしていた。
……どうやらあわてんぼの雪乃は壁かドアをまた無視してぶち壊したらしい。とんでもない衝撃の原因は多分それで、僕は投げ飛ばされたのだろう。
あああ、全身が痛い。
最近はこういう役回りを全て音無君がしていてくれていたから油断した。……雨宮姉妹にはよく振り回されていたもんなぁ…………。


痛みをこらえつつゆっくり起き上がると、小坂君が僕同様投げ飛ばされた気流ちゃんに慌てて駆け寄り治療を始めていた。
気流ちゃんは結構ざっくりとやられていたけれど、そういえばそれはそれで大丈夫なのだろうか。


「あれれぇーえぇっとぉ、雷ちゃん、侵入者見つけちゃいましたぁ」


どうやら相手はそんな心配をする暇すら与えてくれないようだ。



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