「かえ……る……だと」

ぽかんと、海菜は口を開けていた。
というか、雪乃(姿は見えないが)と気流子以外の全員が唖然としていた。
いや、何故蛙なんだ。何故ドラゴンの次が巨大蛙なんだ。もっとこう、強そうなのとか色々あっただろうに、蛙がどう戦うと言うんだ。
「……気持ち悪いです…………」
「まあ、この大きさは見てていい気分になれるもんじゃないよな…………」
隣で空美がげんなりしていた。気持ちは分からなくもない。というか、この大きさの蛙を見て不快というか、気持ち悪いと感じないのは気流子だけだと思う。
彼奴はなんか、蛙らしいし。

「ギャアアアアァァァァッ蛙ぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
「うわああぁぁぁぁぁっ蛙だぁぁぁぁっ!?」
「蛙ですだぁぁぁぁッ!!」
……何故、音無、葉折、仙人の三人があそこまで蛙相手に騒いでいるのだろうか。脅えているようにも見える。彼奴等からは蛙の背中しか見えない筈なのだが…………。

「はっ、早くその蛙を!!『鎖ノ嵐』《チェーン・ストーム》!!」
「そ、そうだね!早いとこ僕らで処分を!!『夜葉桜』!」
「消えるですだ蛙ぅぅぅぅ!!『メテオ』!」

三人は慌てふためきながら蛙に向かって総攻撃を仕掛けた。いや、お前ら撃つべき敵が違うと思うのだが。
残念と言うべきか、三人の全力とも見える攻撃は蛙には当たらなかった。どうやら攻撃が当たらない仕様の幻覚らしい。蛙を通過していった。
そう考えると、恐らくこの蛙も他に攻撃ができないだろうから余計に何故これを幻覚で作ったのか分からない。目隠しにしかならない気がするのだが。

「ッ…………攻撃が見えない」

……あれ。
割と有効だった。
蛙に遮られ、どこから攻撃が来るか見えないらしく、海菜は襲い来る鎖と葉と隕石(?)に苦戦しているようだった。
まさか、これを狙っていた?

「うわああぁぁぁぁぁっ何で当たらないんですかぁぁぁぁ!!」
「おいお前!この蛙を消してくれよ!!」
「も、もうダメかもしれないですだお主等…………」

……そんな事はなさそうだ。
音無は躍起になって攻撃を続けているし、葉折は何処にいるか分からない雪乃に怒鳴っているし、後ろを振り向いた仙人の顔は絶望に染まっているし。
何が仙人を絶望させているのだろうか?
俺は仙人が向いている方向を見てみた。
「……にゃっほ、小坂君。ちょっと私を離脱させてくれないかな?」
そこには、少し顔をひきつらせた気流子と、
「…………かえ……る…………蛙蛙蛙蛙蛙蛙蛙蛙蛙蛙蛙蛙蛙蛙蛙蛙蛙蛙蛙蛙蛙蛙蛙蛙蛙蛙蛙蛙蛙蛙蛙カエルカエルカエルカエルカエルカエルカエルカエルカエルカエルカエルカエルカエルカエルカエルカエルかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえる」
聞き取れるか聞き取れないかぐらいの声で、呪詛のように蛙を連呼する猫神がいた。……なるほど、これはヤバそうだ。
目は見開いているしなんか正気を失っている感じがするし、心なしか辺りが寒くなってきた気がする。
「……小坂さん」
「……なんだ空美」
「……猫さんの魔力が凄いことに…………」
「……蛙のせいだよな?」
「……多分地雷ですよね」
「………………」
「……どうか達者で」
「逃がさねえよ!?」
一人逃げ出そうとする空美の肩を両手で掴んだ。ガッチリ固定。これで問題はない。
「あの……小坂君助け…………」
そんな俺達を見ながら、気流子は救いを求めつつ猫神の腕から逃げ出そうとジタバタしていた。
「…………かえ、るっ……!!」
しかしそんな抵抗も虚しく、猫神の何かが壊れた。
「…………カエル…………センメツ…………」
猫神がぐらりと揺れたかと思うと、大量の氷柱が蛙の四方八方に表れ、蛙を串刺しにしようとした。……残念ながら巨大蛙に攻撃は当たらずに通過するわけで、俺達の方に飛んでくるわけなのだが。

「「「「「「「ギャアアアアァァァァァァァァッ!!!!!!」」」」」」」

七人分の絶叫が部屋中に木霊した。地獄絵図とは正にこの事だ。
更に、猫神は蛙が消えるまで攻撃をやめないらしく、氷柱がやむことは無かった。まずい、そろそろスタミナが……というか、そこら中に氷柱が刺さって逃げ場が…………。

「…………セイッ!」

氷柱に串刺しにされるかもしれない。そう思った瞬間に、攻撃は止んだ。というか、雪乃が猫神に走りながらラリアットをかましていた。
「気流子をこんなにしたこと、後悔してなさい……『アイス・ボム』さあ、みんな滑稽な格好をしていないで走って」
ラリアットで猫神を落としながら雪乃が指を鳴らすと、突き刺さっていた氷柱が一斉に爆発した。
「ぐっ…………!?ま、待て!!」
しかしその爆発の被害にあっているのは海菜だけのようで、俺達はこの部屋から逃げ出すことに成功した。
どうやら、雪乃はちゃんと考えていたらしい。



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