ドラゴン。
平たく言えばヨーロッパで伝説上の怪獣である。
姿は伝説によって様々だし、ゲームやら漫画やらアニメやらによく使われるから伝説どころかイメージもそれぞれだ。
でも、恐らくこれはドラゴンで間違いないだろう。
……さっきあのチャイナ娘……仙人の『ドラゴンブレス』という声が聞こえたのだし。

突然現れたドラゴンは、海菜に向かって紅蓮の炎を吐いていた。
「…………?炎だけじゃ、ない?」
炎を吐いていた筈なのだけれど、それを受け止めた海菜の日本刀は凍っていた。
「…………チッ、こっちが先か……」
海菜は俺達を一瞥するとドラゴンに向かって斬りかかった。
しかし日本刀は虚しく宙を空振るばかりで、ドラゴンのブレスは徐々に海菜を追い詰めていった。ドラゴン、強し…………!
非常に不謹慎なのだけれど、俺はさっきからドラゴンを目の前にして心躍っていた。少年の心がさっきから疼いてばかりである。
「……嗚呼、お姉ちゃんか」
そんなドラゴンに胸をときめかしている俺の腕の中で、気流子がぽそっとそう呟いた。
「お姉ちゃん……?って、昨日猫神と随分仲が良さそうだった……」
「そう。雪乃お姉ちゃん。あのドラゴンはお姉ちゃんの幻覚かな」
「幻覚……ねえ?」
明らかに炎以外のものも吐いているドラゴンを見ながら呟いた。長い尾から所々鎖が見えるのは気のせいだろうか。
そしてドラゴンが吐いた炎に沿って渦巻いている葉が見えるのだけれど、これも気のせいだろうか。
…………気のせいじゃないか。
「……はは、早いお迎えだ」
多分彼奴等が俺達を助けに来てくれたのだろう。嬉しい限りだ。

「気流ちゃん!!小坂君!!大丈……ッ、じゃ、ないね…………」
「……いや、お姉ちゃんを相手にこの傷は大丈夫な方です…………。とりあえずこの檻から出て早く治療を!!」
段々動きを激しくするドラゴンの影から猫神と空美が出て来た。情け無いことに俺は二人を見たとたんに安心したのか全身の力が抜けるのを感じた。さっきまでしゃがんでいたのだけれど、足の力が徐々に抜けていって座り込んでしまった。
「……とりあえず気流ちゃんは僕が。小坂君大丈夫かい?」
「……ああ、俺は大丈夫だ」
なんせ気流子に庇われてしまったのだから。
そんな事を言えるはずもなく俺は支えていた気流子を猫神に頼むと、後ろに手をついて苦笑するしかなかった。
……日常ってなんだったんだろうな。
「……まさか小坂さん、あなたがお姉ちゃんを…………?」
空美が何か言ったのだけれど、俺には聞こえなかった。
嗚呼、散らばったメスを拾わないと。……多分刃こぼれとかしてもう使い物にはならないだろうけれど。

「……立てますか?」
全く、12歳の少女の手を借りて立つというのも情けない話だ。

「召喚士の黒魔術に、多人格者の炎……殺し屋の葉に幻術士の幻覚か。なるほど厄介だ」
俺が空美の手を借りて立ち上がる頃には、海菜は檻から見て左側の方に追い詰められていた。ドラゴンも左側の方にじりじりとよっていくため、次第に右側の壁が見えてきた。
右側の壁にはドアがあり、脱出の道を上手く確保したようだ。これは空美がいたからこその手際だろう。猫神と、猫神に抱きかかえられた気流子、そして昨日雪乃に助けられていた仁王がそのドアの前でスタンバイしていた。
右側の壁に気付いた俺に気付いたらしい空美が俺に耳打ちをしてきた。
「お姉ちゃんに、もう見破られました。お姉ちゃんが技を使うと同時に逃げ出すので準備してください」
あまり意味は分からないが、とりあえず戦闘を避けていることだけは分かった。こんな状況では気流子の治療も出来ないし、空美の思惑は分からないが、さっさと逃げ出すのは賛成だ。わざわざ戦いたくもないし。

「……そこか」
突然、海菜がドラゴンに飛びかかって刀を振り上げた。
ざっと見たところ、ドラゴンの高さは4メートルぐらいはあるように見える。海菜はそんなドラゴンの頭に刀を振り下ろそうとしているのだから、とんでもない脚力だ。
「幻覚は褒めてやろう。ただ、相手が悪かったな。『幻想破壊』《リターン・リアル》」
刀はドラゴンに直撃した。それと同時に、ドラゴンは霧散していった。が、

「私に幻覚は通用しない。残念だったな……せっかくの策だったが…………」
「……あら、この程度の幻覚をやっと破って、何を粋がっているのかしら?」
「な…………」

何故だか知らないが、霧散したものは巨大蛙になっていた。



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