「……ますます、お前がただの一般人か怪しくなってきたな」

床に転がった日本刀に体当たりを決めたメスを見て、海菜ちゃんはため息をつきながら言った。
それに関しては私も同感だ。
このメス捌きといい反応速度といい、殺し屋と対峙しているというのに凄すぎる。
「何、簡単だ。お前にとってその日本刀はデカすぎるんだよ」
「……は?」
襲い来る日本刀に器用にメスをぶつけながら、日本刀の軌道を離れて小坂君は言った。
「それに、俺は餓鬼の頃散々剣道をやってる奴にどつき回されたからな」
苦笑しながら小坂君は言った。
竹刀を振り回す男の子に追い回されどつき回されている小坂君を想像して、ちょっと笑えた。微笑ましいと思う。

その後も、海菜ちゃんが日本刀を振り小坂君がそれにメスをぶつけつつ日本刀から逃げるやり取りが何回か続いた。どうやら小坂君は海菜ちゃんを誘導したいらしい。
多分、鉄格子を斬らせてそこから一気に逃げる考えなのだろう。幸い今はあの双子がいない。
私と言えば、なにも出来ず唯々小坂君に守られていた。これは何だか悔しい。

「…………あ」
悔しいから出来ることを考え続け、漸く見つけた。
「気流りん☆スナイパー!!」
「!?目が…………ッ」
即ち、海菜ちゃんの目を水で狙い撃ちする事。我ながら姑息な手であるとは思っている。それに、シリアスさに欠けるし。
…………いや、これでいいんだ。シリアスなんてシリアルにして食べてしまえ!!

「くッ……こんな水ごわぷっ!?」
目を開きそうになったらすかさず追撃。さっきから嫌いな魔法を連発しているけれど、気にしないことにした。今だけ今だけ。
だけど、私には悲しいことに集中力が無いわけで、段々海菜ちゃんに当てる水の量が増えていった。これがいけなかったのだろう。

「随分、大味な攻撃になったものだな」
「…………え?」
「…………嘘だろ……」

海菜ちゃんの顔ほどの大きさの水の塊が、海菜ちゃんの日本刀によって斬られた。
「いや物理っていうもんを知らないのかよお前は……何で水を斬ってんだよ…………」
その光景に小坂君が愕然としていた。多分、小坂君は一般の知識が魔法の知識よりも豊富なのだろう。一般の知識では、魔法を理解仕切れない。そもそも魔法に物理の原則なんて通用しないのだし。
そしてその理解不能の事態は小坂君の動きと思考を鈍らせる。

「危なぁぁぁぁッ!!」


あ。


小坂君を庇おうとしたら自分が斬られた。
痛い。痛いどころの騒ぎじゃない。
「バカお前ッ…………」
背中の斬られた部分が熱い。其処だけが凄く熱くて、全身は寒い。ドクドクとさっきの左腕とは比べ物にならないくらい血が出ているのが分かって、体温が段々下がっているような気がした。
「あへへっ…………気流りんやっちゃった☆」
「やっちゃったじゃねえよバカ……。此処出たらすぐに治療してやるから少し我慢してろ」
重力に逆らえなくなった私を支えながら小坂君は言った。やっぱり意地でもこの中では治療魔法を使わないらしい。……ここで使われても困るのだけれど。
その代わりと言っては何だけれど、小坂君は自分のジャージを脱いで器用に私の傷口を押さえるように縛った。確かこのジャージは高い筈なのだけれど…………それに、血はなかなか落ちないし、いいのだろうか?
「其処まで斬られても、治療魔法は使わないか…………。なら、もう少し深く斬るしかないな。まったく、大人しく従えば痛い思いをしないで済むのに」
小坂君に支えてもらっている私を見下しながら、海菜ちゃんは言った。その声は酷く淡々としていて、感情は何処へ置いてきたんだと聞きたくなってしまうものだった。
12歳でこんな声と表情だなんて、殺し屋は怖すぎる。一体どんな育てられ方をしてきたのだろうか。

じりじりと海菜ちゃんは近付いてくる。小坂君……勿論私にも逃げ場はない。
私のせいで万事休す、絶体絶命のピンチに追い込まれてしまった。




「其処までですだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!喰らえ、即席ドラゴンブレス!!」

計算されたかのように、転機は突然訪れた。
ただし、この特徴的な喋り方は仙人ちゃんなのだけれど、仙人ちゃんはここには居なかった。
代わりに…………

「「「ドラゴン!?」」」

ゲームとかに出て来そうなドラゴンが、そこに居た。



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