30分後。
と、言っても時計が無いのだから30分経ったのかは分からないけれど、再び海菜ちゃんが私達の目の前に現れた。 「…………それが、お前達の答えか」 無表情のまま海菜ちゃんは言った。空美ちゃんと双子だというのに、雰囲気が全く違うのは何故だろう。
私達と言えば、勿論血も垂らさないし治療魔法も使わなかった。つまり、『協力しない』というのが私達の答えだ。 「……全く、事を平穏に進めたかったのに」 黙りを決める私達に海菜ちゃんはため息をつき、そして刀を抜いた。 嫌に光る白い刃が私達に向けられる。 ……これは、どうしようか。
「お前達が進んで協力してくれないのなら、無理矢理やらせるまでだ…………殺してでもな」
海菜ちゃんの声にゾクリと寒気が走ったと同時に、海菜ちゃんは白く光る日本刀を振るった。 「…………ッ!?」 「…………うっわ」 小坂君は目を見開いて驚き、私は思わず声が漏れた。 海菜ちゃんが振るった日本刀が、一部の鉄格子を切り裂いたのだ。 切り裂かれた鉄格子はバラバラにされて、耳障りな音をたてながら辺りに散らばった。 「最後のチャンスをやろう。こうなりたくなかったら、協力しろ」 ゆっくりと私達に近付きながら海菜ちゃんは言った。 「やだよ」 断れば殺されるけれど、私は勿論断った。 ……別に、私だけなら協力していただろう。でも、今此処には小坂君がいる。私が此処で海菜ちゃんの脅しに屈しても、小坂君はきっと断るだろう。……ううん、絶対断る。小坂君は割と頑固だもの。 なら、小坂君が決して協力しないなら、私だって協力する意味がない。付和雷同かもしれないけれど、これが私だ。
「……そうか」 「勿論、俺もだ」 ちらりと海菜ちゃんが小坂君を見た瞬間に、小坂君は答えた。 「殺されようが、俺は協力しないからな」 まるで自分に言い聞かせるように小坂君は言った。その目には強い意志を感じる。 ……私も、いつかこんな風になれたらいいな。
「……ふ、頑固だな。…………だが、その威勢は何時までもつかな?」 不敵に笑って海菜ちゃんは、また日本刀を振るった。 ヒュンッと風を切る音が聞こえて、何時の間にか私の左腕は出血していた。 「――――ッ!?」 右手で左腕を押さえるけれど、ドクドクと血は流れ続けてコンクリートの床を濡らした。 「なッ…………お前…………!!」 「これで、蛙の血は流れた。後はお前がこの蛙を治療してやればいいだけだ。……さて、蛙はどれだけ私に斬られるかな?」
おお…………何時の間にか私が人質になっていた。 斬られるのは痛いけれど、少しぐらいなら水の力で何とかなる。魔法は嫌いだし、あまり使いたくないのだけれど、此処で小坂君に迷惑をかけるわけにはいかない。 私はそっと傷口に水を纏わせた。 「ふうん?お前は自分が斬られてもこのジャージに治療させない気か……これは面白い。我慢比べだ、なッ!!」 海菜ちゃんがまた日本刀を振るった。 脳が危険を察知したのだろう。動けないけれど、そこから全てがスローモーションで見えた。 と、同時にこの刀の軌道は避けられないし、斬られたらかなり危ないかもしれないということを悟った。 …………なるほど、私が蛙なのだから海菜ちゃんは蛇か。
気付けば私は反射的に目を閉じていた。次に目を開く時には肩から斜めに斬られているだろう。
その筈だった。
でも、ガキンッと金属がぶつかる音がしただけで、私は斬られていなかった。 代わりに、小坂君に抱き寄せられていた。…………はい?
…………え?
えええええッ!?
パニックです。雨宮気流子、今世紀最大のパニックです。なぜ私は小坂君に抱き寄せられているのでしょうか。と、いうか小坂君にこんな反応速度があったのだろうか。 かなりの身長差があるため、見上げるように小坂君を見てみると、どこから取り出したのかメスを右手に装備していた。 「お前が諦めるんだな。俺は服の至る所にメスを仕込んでる。お前の日本刀の軌道、全部邪魔してやんよ」 ピッと右手に持ったメスを海菜さんに向けて、小坂君は言った。
私は不覚にもそんな小坂君にときめいていた。 こんなこと、あるはずがないのに。
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