空気を読むことは大切だけど、バカみたいに周りの空気に合わせすぎるのもどうなんだろう。
時には、空気をぶち壊しちゃう事も必要だと、私は思っている。
…………なんて、私が言っても空気が読めないことに対する言い訳にしか聞こえないけれど。

それでも一応、私が今おかれている状況は分かっている筈だ。
音無君を殺そうとしている敵に誘拐されて、監禁されている。いわゆる人質状態なんだと思う。
空腹を訴え続けて相手の要求を拒否していたけど、あんぱんを貰っちゃったからこっちも要求を呑むしかなくなってしまった。しくじったかなとは思っている。
こんな状況なんだから、要求を拒否すれば私達は直ぐ殺されてしまうだろう。
私は良くても、小坂君が殺されるのはあんまり良くない。逃がす方法を考えても壁を壊すぐらいしか見つからなくて悲しくなってきた。

ちらりと小坂君に目を向けてみる。
小坂君は、右の方から現れた日本刀を持った空美ちゃんを凝視していた。
……いや、多分あれは空美ちゃんじゃあ無いだろう。私は魔法が大嫌いだけれど、魔力ぐらい感じ取れる。
この子から感じるのは、空美ちゃんみたいな包み込むような魔力じゃなくて、刃物のような、冷たい魔力だった。ピリピリしたオーラを放っている気がする。
「……私は、空美ではない」
空美ちゃんと瓜二つの子は、口を開いた。

「――私は組織司令官。昼夜家秘蔵っ子の片割れ、昼夜海菜だ。空美が世話になっているようだな」

クールな口振りで、海菜ちゃんは自分の名前と肩書きを言った。
殺し屋秘蔵っ子にして、こんな組織の幹部ってことは、相当の実力派なのだろう。
「さて……私達の要望を聞いてもらおうか」
海菜ちゃんは不敵に微笑んだ。私の心境にでも気付いたのだろうか。
もう、要望に答えるしかないと諦めている私に。

「要望と言っても簡単だ。そこの蛙はその檻の中で血を垂らせ。ジャージ、お前は治療魔法を使えばいい」
簡単だろう?と、海菜ちゃんは言った。
その瞬間、ヴン……と音がして、檻の中に魔法陣が表れた。でも、これは…………
「…………未完成?」
この魔法陣は子供が地面に落書きしたような不完全なもので、多分これでは魔法も何も発動しない。
「よく気付いたな。そうだ、これを完成させるにはお前達二人の力が必要なんだ」
「……なるほどな」
しゃがんだ姿勢で光り続ける魔法陣に手をかざしながら、ずっと黙っていた小坂君が口を開いた。
「じゃあ、これが完成したらどうなるんだ?」
素朴な疑問らしく、魔法陣に目を向けたまま小坂君は聞いた。もしかしたらこれは独り言だったのかもしれない。小坂君は音無君の次に独り言が多い人だ。
「お前達に答える義務はないな」
そんな小坂君に、海菜ちゃんは淡々と答えた。
「そうか」
小坂君はやっと顔をあげて、立ち上がった。

「それならお断りだ」

…………。
もしかしたら私は、初めてこんないい笑顔をした小坂君を見たのかもしれない。
「ほう……?何故だ」
「当たり前だろ。何だか分からないもんを完成させるなんて怖いだろ」
「ヘタレだな」
「…………。お隣さんを殺そうとする敵の要望なんて、普通答えるわけが無いだろ」
「応じないなら殺すと言ったら…………?」
「いいや、お前は殺さないだろうな。俺達には人質としての価値がある筈だからな」
「一般人にしてはよく分かってるじゃないか。もしかして、一般人というのはハッタリか?」
「いや、漫画の知識だ。俺は一般人だ」

何故か二人は終始笑顔だった。それなのに会話の内容は不穏なのだから怖い。
海菜ちゃんは、笑いながら「三十分まで待ってやる。それまでに答えを出しておけ」と言って部屋から出て行った。
それを追いかけるように、九十姉妹(完全に忘れていた)も出て行った。
結果、二人きりになりました。

狭い檻の中で。

狭い檻の中で!!

この狭い檻の中で!!

大事な事は何回でも叫びたくなる(心の中で)。
一応私は花も恥じらう年齢なのだけれど。
ふふふ、悲しいかなそんな事を感じさせないのが私の外見(多分中身も)だ。

「……気流子」
「ケロッ?」
突然名前を呼ばれて吃驚した。吃驚してもいつも通りの私の反応だったのが残念だ。

「勿論、奴らに出す答えは決まってるよな?」

何かを考えている様子の小坂君の表情からは、さっきの笑顔は消えていた。



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