一晩寝たら体調はよくなっていた……なんて、都合のいい展開は用意されていなかった。 まだ身体のあちこちが痛むし熱い。それでも昨日よりはましになったような気がして、そこは少し嬉しく感じた。
と、いうかその前に。時計を見たら普段より二時間ほど寝坊をしているのだけれど。よく考えたら僕はそんな悠長にしている場合ではないし…………。ううん、起き上がるのも怠い。でもそんな弱音も吐いて居られない。 気流子さんのお姉さん……雪乃さんが既に敵と接触しているのなら、一番狙われている僕がみんなに迷惑をかける前になんとかしなければ…………。 そう思うといてもたってもいられなくなって、僕は出来るだけ急いでリビングへ向かった。
「…………?」 リビングでは異様な空気が流れていた。ピリピリしているとか、そんな生易しいものではない。 「……ふざけてんじゃ無いわよ、あいつら…………ッ殺す……殺してやるわ……!!」 「落ち着いて、雪乃……。そんなに気を荒立てても」 「五月蝿い!!これで落ち着いていろって言うの!?冗談じゃないわ!!」 「分かっているけど!!……雪乃」 「…………」 まず、入り口付近で猫さんと雪乃さんがそんなやりとりをしていた。状況が分からなくても、二人が相当怒っているのは分かる。怒気が凄まじい。 僕はそんな二人に話しかける事も出来ず、ただ黙って立ちすくむことしか出来なかった。 リビングの奥には落ち着かない様子の見知らぬ男の子と、何か深く考えている様子の葉折君が見えた。
この様子から思うに、何か事件があったのだろう。しかし、それにしては珍しくまとめ役の小坂君や空美さんが居ない。二人は外しているのだろうか?
それから間もなく、リビングの中央に空美さんと仙人さんが現れた。これが空間移動と言うものだろうか。 「ああ……空美ちゃん、仙人、どうだった?」 その二人に葉折君が話しかけ、そのまま何か会話しているようだったけれど、聞こえなかった。 ……否、聞こえなかった訳じゃない。他の事に集中し過ぎて聴力が疎かになっているだけだ。 どくんと、心臓が大きく鳴る。嫌な汗が流れる。 僕は少し震える声で言った。
「あの……小坂君と、気流子さんは…………?」
時間が一瞬、止まったような気がした。 6人の12個の目が驚いたように、一気にこちらを向く。 「お、音無……大丈夫かい?」 普段とは明らかに違う、狼狽えた様子の葉折君がこっちに寄ってきた。 「……僕は大丈夫です。それより何が…………」 あったんですか?とは、聞けなかった。言う前に、僕は葉折君に抱き締められていたからだ。 「ごめん……」 「……葉折……君…………?」 僕を抱き締めているというのに、葉折君が普段とは全く違う。
それだけで、大体全部が分かってしまった。 空間移動で帰ってきた空美さんと仙人さん。激怒している猫さんと雪乃さん。普段と様子が全く違う葉折君。少し前からここを観察しているらしい敵方。……そして、今ここに居ない小坂君と気流子さん。 全てが、つながってしまった。 そんな事が分かっても、僕の身体は未だに上手く動こうとはしなかった。全く……世話の焼ける身体だ。 ……嗚呼、身体が動かないのなら、無理やり動かしてしまえばいいんだ。なんでもっと早くに気付かなかったのだろう。今僕の中には腐るほど魔力があるじゃあないか。 僕はそっと、身体を魔力で包んだ。結果、鎖を纏う形になってしまったけれど、仕方がない。
「……音無?」 「大丈夫ですよ葉折君」 鎖に気付いたらしい葉折君に僕はそっと言った。 「奪われたのなら、取り戻せばいいんですから」 恐らく、もう二人が攫われた場所の目処はたっているのだろう。なら、取り返しに行くだけだ。
「乗り込みに行きますよ」
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