地面に突っ伏す雪乃を抱え上げる。頭に直に伝わる衝撃は流石にキツかったらしい
さしずめ脳震盪といったところか……気流ちゃんも容赦ないね
気流ちゃんに視線を送ると「てへっ☆」とかなんとか、やりすぎちゃったと言いたげに舌を少しだけ出してみせた。無邪気に恐ろしい子だ
「……雪乃、喋れるかい」
「……綾……?………………あ、」
「?どこか痛むのかい」
「いや……ごめん……なんかテンションがあがっちゃって……別の意味で危険かもしれない」
「そうかい、じゃあ気流ちゃんにバトンタッチするかな」
「……!!それだけはやめて!」
数年前と同じような会話をしてお互いコミュニケーションをとった。相変わらず建前上だけはいっちょまえに妹嫌いしているらしいね

「で、雪乃は何をあんなに荒ぶっていたのかな?」
「………………あはは」
笑ってごまかそうとしているのが丸分かりだった
「困った時の読心術ー☆」
そう言いながら気流ちゃんが後ろから抱きついてきた。すると雪乃は「離れろ蛙。余計な事を言うな」とか心底イラついた様子でいた

「……お待たせ皆、わかったよ。とりあえず岩の影にいる子供と雪乃をつれて家に帰ろう。話はそれからだ」

葉折君や空美ちゃんは「おーらい」だの「了解しました〜」だの言ってくれたのだけど、仙人は黙ったまま黙々と雪乃をおぶって歩いていた
「…………」

時々また仙人ではない別の人格が現れるのではないかとも心配になるのだけれど、本人が大丈夫だと言っているのだしそれを信じようということにしてある
安易かもしれないけれどもしもそんな事が再び起こったのならその時にでも考えればいいかなって。……やっぱり安易かもしれないけど、ここは信頼感でこそカバーできる部分だ。仲間として信じよう

黙って負ぶさる雪乃の背中と無言で歩く仙人の背中をそっと見守った。




「……で?」
「気流リンのお姉ちゃん☆」
家に戻ると必死に怒りを抑える小坂くんが小刻みに震えていた。
「突然居なくなったと思ったら……患者増えるし……」
「仲間も増えるし〜☆」
震える小坂君を前にくるくると回転する気流ちゃん。悪気は無いのだろう。いや、あるのかもしれない
「謝れ!せめて謝れ!!水を運んできたと思えばぶちまけやがって!後始末もせずにどっか行きやがって……!汗拭タオルがあっという間に雑巾に早変わりだよ!患者を雑巾で拭けるかってんだよこの野郎!あのな……会話のできる人一人いるだけでもな……励みに……」
「……寂しかったのかい?」
容易に想像出来てしまうその様子に少し腹筋をくすぐられてしまう
「そっそーゆーんじゃねえッ!!俺は怒ってるんだ!!心配させやがって!!」
お、いい感じにまとめようとしてる。だけど残念な事に顔が真っ赤だ

「……は……誤魔化しきれてないですよ。ヘタレ」
「戸垂田だッ!!」
体力が回復してきたのか雪乃が小坂君にちょっかいを出してきた
「俺は本気で心配して……」
「あれ?まだ紹介してないよね」
「なんかオーラがヘタレなのよ……わかるでしょ?綾」
「ああ……」
不覚にも妙に納得してしまった。話を聞いてもらえなかった小坂君がワナワナしている

「おい」
突然今まで無言だった仙人が声を発したことによりあたりは静まり返る
「…………」
「雪乃、見下すのをやめなよ」
意味あり気に仙人を見つめる雪乃に一つ忠告しておく
「仙人は君の想像を絶する程強いからね」

ただならぬ空気の中、雪乃は一二秒おいて不貞腐れたように「……自分で歩けます」と仙人に呟いてみせる
「どこまでも嘘つきですだ。コイツ」
それに応えるでもなく仙人はただ無表情でそう言った。
「……それで?」
「ただ……」
気に食わないですだ!と雪乃を地面に投げ捨てた仙人に一同が吃驚する
「痛い……いや、痛くない。痛……くない。痛くない」
呪文の様に呟きながら地面で生まれたての小鹿の様に震える雪乃。いや、今のは誰がどう見ても痛いと思う
「おい!俺の仕事が増えるだろ!金取るぞ!」
払ったところで受け取らない気がするのは気のせいだろうか。
「はっ……まさか、もしかしてもしかしなくてもこのヘタ男が治療士…!?」
「何だいヘタ男って……雪乃もギャグが言えるようになったんだね」
何かに気づいて深刻そうに考え込む雪乃。深刻そうなのにわけのわからない造語を造る辺り未だに混乱しているのだろうか
「え?なあに綾、ギャグって……え?誰が?」
「……なんでも、ないよ」
僕にだけ向ける様な笑顔で答えられたら何も言えない。絆というものだろうか……違う気がする




何となく雪乃も雰囲気に馴染んで、治療室(という名の気流ちゃんと僕の部屋)に運ばれた。雪乃の男嫌いのこともあって治療は僕と気流ちゃんで行うことになった



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