一発、二発と凄まじい速さで拳を打ち込むその姿は既に砂煙により視界には映らなくなっていた。 大地震のように揺れ、激しい地鳴りが聞こえたかと思えば空から大きな岩が次々に降ってくる。まるで火山の噴火を目の当たりにしている気分だ 恐らく彼女の拳によるものなのだろうとかわしながら予想する。仙人はどこまで仙人なんだろうと考えてしまう辺り僕にもあまり余裕はないらしい
「空美ちゃん!葉折君!無事かい!?」 「は…はいぃ…きゃん!」 「僕も大丈夫だよ、おっと!」 どうやら葉折君が空美ちゃんを庇ってくれているらしく、空美ちゃんの悲鳴の次には葉折君の声が聞こえて岩の砕ける様な音が聞こえてくる 普段から真面目にしていれば音無君もさぞ喜ぶだろうにと思ったのは僕だけではなく空美ちゃんも同じらしい。妙な時に読心術を活用してしまう僕である
(力技で幻覚が破れるのなら誰も苦労しないでしょうに) 「ん?ああ、そうかもしれないね……あ」 聞こえてきた声につい反応してしまい、後悔した頃にはもう遅かった 「…消えた」 たった今響いた声は名前を呼ぼうが話しかけようが再び聞こえる事はなかった 何だか悔しいのは、掴めそうで掴めないもどかしさからの苛立ちだろうか いい年して隠れんぼだなんて何のつもりだよ。と心の中で呟く
三十分も前からなんとなくは気配を感じていたのだけど、幻覚の効果なのか何なのかそれが親友のものなのかはっきりとはわからず。暴れる仙人を使い、様子を見させて貰った。 だけどたった今、感じていた靄の正体がはっきりした。先日感じ取った意識の波長とピッタリ合致したそれは、間違いなく僕の親友のものだった。
これでもし見知らぬ敵だったとしたらどうしようかとか、もしもの事を考えていた自分が馬鹿みたいだ
「らららららららららららららららららららら!!!!!」 こうしている間にも仙人はどんどん加速していってオーバーヒートしてしまうのではないかと思うぐらい真っ赤になっていた。いや、既にオーバーヒート気味なのだろう あの赤が血の色なのか熱によるものなのかは砂煙でよくわからない けど、恐らく砂煙の中発光しているのだから熱によるものなのだろう。すごい…ファンタジーの世界だ
…………ふむ
「おおかた自分の声が僕に聞こえることを恐れて無心を気取っていたんだろうけど、仙人は心の無い状態の人間になんか負けやしないよ」 思い切り他力本願丸出しの台詞を吐いたら、少し惨めな気分になった
「誰と話をしているんだい猫神!?」 「猫神さんが…おかしくなりました…!?」 自身の身が危険にさらされているというのに失礼な事を言う二人組もいたものだ。僕の能力を忘れたわけではないだろうに
「仙人は君と違ってとても素直でね、度々お世話になっているんだよ」 「何を心にもない事を言っているんだい!?」 …お願いだから黙っていてくれないかな 横目で葉折君のいる方向を睨む僕の様子に目敏く気づいた空美ちゃんが葉折君の口を塞ぐ 「このまま意地を貼り続けるつもりなら」 ……まだか 「僕は」汗が頬を伝う
「………君と、ぜっ」 そこまで言うと突然空気が重く鋭くのしかかってきた。 地面に押さえつけられる皆の姿を見れば重力が凄まじく強くなったとも見まごうけれど、これは精神による圧迫感の所為だ。その証拠に砂煙は未だに中に漂っている つまり僕の親友は大きく動揺しているという事になり、僕の作戦は見事成功したという証拠にもなる ただ、突然の事で仙人までもが地面に張り付いてしまったのは予想外だったけれども
「み つ け た っですだぁぁぁぁぁぁぁぁぁおらぁああああああああああああああ!!!!」
だけど仙人はそんな圧迫感などものともせず、空間に現れたヒビを見つけるなりなんなり地面に手をついて回し蹴りをかました。雄叫びと共に放ったその技は流石としか言えない綺麗な蹴りだった。
周囲の景色が渦上になってまるで排水溝のようにひびに飲み込まれていく。 しばらくすると狂っていた平行感覚も元に戻り、目を開くと目の前に三人の仲間が僕の顔を覗き込んでいた
「大丈夫ですか…」 「僕たちは最初から移動なんてしていなかったってことらしいよ」 「だけどもなんとも言えない疲労感が残っているですだ」 僕の体を起こしながら三人は次々に語った。状況が飲み込めない、と思ったものの周囲を見渡すことによってそれは改善された
人気のないガランとした住宅街、後ろを振り向けば小坂君の家。………そして音無君の悲痛な叫び声 目を覚ました場所がとっくにその場を後にしたはずの場所なのだから笑ってしまう。 流石にこの状況で鼻血を流そうとはせず、葉折君は「あっちだね」と住宅街とは反対の方向を指差した
しばらく歩けば小さな崖と洞穴があり、そこから親友の気配と…もう一つの気配が感じられた。 「…もう一人、いるみたいですね」 「でも何だか今にも消えそうだね」 「死にかけてるみたいですだな」
てんでんにそんな事をいいながら洞穴を見つめ僕がそれをまとめるように「じゃあ行こうか」と言った。
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