「おかしいですだ」
しばらくすると、仙人がそんなことを呟いた。
「……おかしいって?」
長時間…といっても三十分程なのだけど、激しく揺らされ続けて天と地の区別がつかなくなっていた僕は、ほぼ条件反射のように聞いた

「いつまで経ってもあいつとはち合わせない……おかしいですだ……」
「なるほど…ちょっと…止まろうか?」
「そうですだな。鬼ごっこも飽きてきたですだ」

そろそろ本気で気分が悪くなってきたところで、仙人の言葉に酷く安堵する。嗚呼気持ち悪い
「…ところで仙人、今言っていた事だけd
「だらっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
僕が新たなる提案を施そうかと思った矢先に仙人が急に走り出した。
忘れかけていたけど、彼女は一応ムードクラッシャーの一人でもあるんだった
興奮させると危険だ。話の展開も、僕や葉折君たちも

「仙人てば興奮しすぎだよ、落ち着こう!ほーらひっひっふー…」
ひとまず気持ちを落ち着かせようと気流ちゃんが言いそうな言葉を並べてみる。
和むでも萎えるでも良いのだけれど、とりあえずは和んで欲しい気がする
気流ちゃんが言えば和んで僕が言ったら萎えるだなんてそんな無慈悲な現実を突きつけられたくはないじゃないか。しかも絞りに絞ったギャグがそんな結末を迎えるだなんて
「……それは、お前が必要なんじゃないですだか?」
「……ひっひっふー…ひっひっふー…」
あれ?おかしいな…。
仙人の反応は僕の斜め上を行ってしまった。笑うでもなく嫌な顔をするでもなく…
個人個人のもつ能力は違うものなのだと改めて思い知らされるだけに終わってしまった。
いや、だけど仙人は呆れた様子でこちらを見ている。とりあえず目的は果たした気がする。空回りしたけれど

「……仙人、さっきの話だけど」
「ああ」
幻覚ですだな。
仙人は見抜いているらしかった。ここが既に彼女の幻覚によって造り出されたものだという事を

「ええ!?げ、幻覚って…」
「そんな古風な技を使うやつが未だにいるのかい!?」
大層驚いた様子で僕と仙人に迫る空美ちゃんと葉折くん…ところで葉折君はいつ頃目を覚ましたんだろう
軽い擦り傷だけで済んでいることが何よりも不思議だ

「……擦り傷だけで済んでいると思うかい…?」
僕の驚いた様な表情を読み取ったのか、見てみろと言わんばかりに中途半端にスカートを持ち上げる彼。その姿をおぞましいと言う以外何と言えば良いのか

見えそうで見えないというある特定の(葉折君の様な)趣味を持つ人間ならば、鼻血を吹いて大喜びするであろうその状況に耐えうる程の精神力を生憎僕らは持ち合わせていない
「ぎゃああああやめるですだ変態ぃぃぃぃぃぃぃぃ」
「げぅっ!」
「きゃあああああああ変態ぃぃぃぃぃぃぃ」
「ふぶぶぶぶぶっ!?」
「気持ち悪い」
「ぐふ!?」
飛び蹴り、往復ビンタ、右ストレートを順にくらった彼は無残にも散った。(最後はもちろん僕だ)
無様にも地面に突っ伏して痙攣して
「なーんてね!華麗にかわしてこそのなんとやら!君たち恥ずかしいからってすぐに暴力を振るうのはどうかと思うね!暴力振られる立場だから堂々と言うけど!」
……いなかった。いくら体力の無い僕だからと言ってここまで無傷だといささか疑問を抱かずにはいられなくなる。殺しに長けている者は受身にも長けているのだろうか?殺し名だからなのか?なんにせよ、久々に殺意が湧いた瞬間だよ…

それは空美ちゃんも同じだったようで、僕と殆ど同じタイミングでゆらりと前へ一歩踏み出してきた。右には固い拳が威圧感を放っている

と、横から仙人のが手が伸びてきて何も言わずに僕らの前へ立った。
どうやら手を出すなということらしい。実に男らしいじゃないか
「お前…邪魔ですだ、地面に埋めんぞ」
「…………」
一度痛い目にあっているからなのか仙人の目も口調も本気だったからなのかよくわからないけど、指をパキパキとならす仙人に威圧されて黙ったことには変わりないようだ。
さて、話もついたみたいだし本題に戻ろう

「ねえ仙人、幻覚から抜け出さないと彼女には会えない訳だけど。そこで僕にいい考えが…」
「ああ、うん」
「仙人?」
「うん。任せろですだよ」

うわぁ…
凄くいい目をした…というか、目に光がハイライトが見えない笑顔
不安だけどどこか頼もしく思った僕は愚かだろうか?
決して面倒くさいなどといった理由ではなく、たまには仙人に見せ場を作らなければと思ったまでだよ。うん(大嘘)

「みんな地面に伏せてろですだ」
何が起きても良いようにと、少し距離を置きながら言われるがままに地面に伏せる

深呼吸。吸って、吐いてを二往復程して。集中しているのか何なのか下を向いたまま十数秒間動かなくなった

そして

「だらららららららららららららららら!!!!」




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