二人とも絶句しているがよく見たら…………ん? 「……お前等、震えてねーか?」 「そそそそ、そんなこと有るはずが無いじゃないですかぁ!!」 空美の声は裏返っていた。そして異常なまでに動揺していた。分かり易すぎだろ。 「だ、大っ嫌いだけど日々の積み重ねが一番だとか、こんなのやるなら力なんて要らないとか、痛いの嫌だとか、音無さんが痛々しくて見てられないとか、魔術怖いとかそんな事、これっぽっちも思ってないですから!!」 「…………そうか」 「う、うわぁぁぁぁ流さないで下さいよう!!ごめんなさい嘘吐きました怖いです。痛いの嫌です!わ、私これ、やりませんよね!?」 嗚呼、いくら殺し屋でも子供は子供か。空美は半泣きだった。どんだけこれやりたくないんだよ。俺も嫌だけどさ。
一方で変態の方はと言えば、顔は間抜け面のまま手をわきわきと怪しげに動かしていた。これは…………。 「おい、へんた……」 「誰が変態だ!僕は紳士だ!!」 どうやら変態スイッチが入ったようだ。さっきまでのシリアスな空気はどこに行ったんだよ。シリアルになって蛙女に食われたのか?そんなバカな。 「……葉折、今考えていることを正直に話せ」 「!!聞いてくれるんだね小坂君!!」 「お、おう?聞かせたかったのか?」 まずい、音無の貞操の危機かと思って聞いてみたがもしかしたら地雷だったかもしれない。 「いやー、これは是非ともみんなに共感してもらいたくてね」 目を輝かせ俺の両肩を掴みながら葉折は言う。肩がめちゃくちゃ痛い。そして顔が近い。鼻息が荒い。寄るな変態が。
「いやぁもうね、ずっと思ってることだけど改めて思ったんだ、音無可愛いよ!!苦しんでるところを見ると心が痛んで居てもたってもいられなくなるけど、それよりも苦痛に呻く声がエロすぎる!!こう、なんで僕を煽る感じの声なのかなぁ!?きっと呼吸が辛いんだろうけどさ、さっきから荒い呼吸がエロくてエロくてもう音無ぃぃぃぃ!!実は僕はあんまり猫神を良くは思ってないんだ。そりゃそうさ、音無が……ああああ!!……こほん、ごめんよ荒ぶるつもりは無かったんだけどね。でも今回ばかりは感謝感激だよ好感度鰻登りだよ!!改めて言おう、エロスをありがとう猫神!!とりあえず僕は付きっきりで音無を看病したいんだけどいいかな!?いいよね!!ぐへへ……音無の看びっぐはぁぁぁぁっ」 「良いわけあるかァァァァ!!」 鼻血を吹き出しながら全力で語り、明らかに危ない思考で音無を看病しようとする危険人物を、俺は思い切り殴らずにはいられなかった。 とりあえずすまない、音無。お前は結構シリアスなことになってるのにな。
「今の右ストレートは素晴らしいですだな……ヘタレ、やれば出来るじゃないですだか!!」
褒められた。あんまり褒められてる気がしない。 「今、こんなだけど音無は強くなってるですだな!?ならモタモタしてる場合じゃないですだ!!さっさと修行始めるですだよぉぉぉぉ!!」 目を輝かせたチャイナ娘は左肩に猫神を担ぎ、右で空美を小脇に抱え、ついでに右手で変態のフードを掴むと物凄い速さで家から出て行った。猫神はさっきのでかなり魔力を消費したはずなのにいいのかね、あれは。 まあ、俺がなんと言おうと無駄だろう。あの化け物じみたチャイナ娘を止めるなんて多分じゃなくて絶対無理だ。
「……凄いやる気だね、仙人ちゃん」 そんなチャイナ娘のスピードに呆気にとられていた気流子がぽつりと呟いた。 「お前は強制連行されなかったんだな」 「うん、掴まれそうになった瞬間に葉折んを盾にしてみました!!」 変態ぃぃぃぃ!!何気に変態は犠牲になっていた。 そのかわり、音無が犠牲にならずに済んだ訳なのだけれど。 「とりあえず気流りん、冷たい水とタオルと桶持ってくるね!」 気流子はそう言ってパタパタと風呂場へ向かっていった。
……音無の看病か。 一体どうやれと言うんだろうか。
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