外は雨が降っている。しかも土砂降りの雨だ。激しすぎて、一部の音が雨の音でかき消されてしまう程の。
 この雨の中、外を彷徨くなんて相当なことが無ければ誰もいないだろう。もう、夜なのだし。
 だがしかし。
 本当にしかし、だ。

 こんな日でも彷徨いている人は居た。物好きがいたものだ。いや、好きでうろついているわけではないのだろうけれど。
 その人物はどこかの家への訪問者のようで。と、いうか僕の家の訪問者だった。インターホンの音が聴こえたのは奇跡に近いだろう。よくやった、僕の耳。
 訪問者の姿を見た瞬間、僕はその人の余りの怪しさにドアを閉じてしまった。
 なんだろうか、あの斑に赤く染まったローブは。返り血のようにしか見えなかった。明らかに殺人臭がする。フードを被っていたから顔がよくわからなかったけど、身長がやけに大きかったから男だろうか? 人殺しの男、が僕の家に何の用だろうか。とうとうばれてしまったのか? いや、そんなことあるはずがない。ばれないように僕はやってきたはずだ。
「えーっと……僕は人殺しなんてしてないよ?」
 ドア越しに聞こえた声は女性のものだった。
 何故僕が今人殺しを考えたと分かったのだろうか。言われ慣れているのだろうか。なんだか興味が沸いてきてしまった。こんな日の夜に彷徨いているのだし(関係ない)。話くらいは聞いてあげてもいいのかもしれない。……いざとなれば、戦えばいいのだし。
「……ご用件は、なんですか?」
 ドアを開けて、彼女(?)を玄関に入れてから訊いてみた。流石に相手を外に置いたまま会話を試みるほど僕は鬼ではない。僕は優しい人だ(自己申告)。
「ん、ありがとう。初対面でいきなり悪いんだけどさ、僕を居候させてくれないかい?」
 ローブを脱ぎながら彼女は言った。とても、魅力的な笑顔で。
 水も滴るいい男と言うが彼女はまさにその女バージョンだった。金髪が水滴によってなんか、こう輝いているように見える。濡れた髪と顔はどこか色気を感じさせた。更に、ローブで隠された身体は見事なる砂時計型だった。ボンッキュッボンだ。男だったら誰もが振り向く、そんな体型。左腕がやけに不自然に二次元的ぺったんこなのが気になるけれど……って、この人もしかすると左腕が無いのだろうか? ああ、そんな事はどうでもよかった。つまり僕が言いたいのは彼女が美人であると言うこと。
 もっと簡潔に言うとするならば、僕は初対面の彼女に一目惚れをした。
 さて、思考を冷静に戻して問題を見つめよう。
 居候だって?
 はい?
「ダメ……かな? もし居候にしてくれたら、電気代を浮かすことくらいなら出来るんだけど」
 僕に向けられたのは、眩しすぎるほどの笑顔。一目惚れをより一層悪くさせる凶悪な眩しさ。
「でも、僕もあなたもまだ他人で知り合ったばかりじゃないですか」
 なんとか男のプライドを保ってみようとベタな台詞に逃げ道を求めてみた。
「自己紹介……した方がいいかな? ああ、君の自己紹介は必要ないよ、嘘誠院音無君。悪いけど、君が過去にやったことも全部読んだから」
 最後に「今まで大変だったね」と言って彼女は微笑んだ。
 僕の予想は半分正解だったわけだ。彼女は、僕が過去に犯した禁忌を知っている。そしてそれを隠して僕がこうして暮らしていたことも。どこから情報が漏れたのかは知らないけれど。『読んだ』と言っていたから資料かなにかだろうか。一つだけわかるのは、彼女の要望を聞き入れずに帰してしまうと、厄介だということ。過去に禁忌を犯した僕でも、それくらいのことはすぐにわかった。



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