「か、借りてきた?スキルってそんな簡単に貸し借り出来るもんなのか?」

誰もが思ったであろう事を小坂君が代表した。猫さんはそれに「簡単ではないけど、やり方はあるんだよ」とぼかして言い、それ以上のことは言おうとしなかった。
「……スキルを使って魔力を引き上げるなんて…………」
「荒技にも程があるよ…………そんな事出来ればみんなの魔力はとんでも無いことに出来るじゃないか」
殺し屋二人が驚愕していた。殺し屋として日々鍛錬してきた二人にとって、こんな事は鍛錬の無意味さを示すものだろうしな。
「正攻法で勝てないなら裏技しか無いじゃないか。……でもまあ、これあんまり便利な手段では無いんだよね」
そんな二人をフォローしてるのかしていないのか、猫さんは苦笑して言った。

「とりあえず早いとこやっちゃおうか。小坂君と気流ちゃんと仙人はちょっとこの後のこと頼んだよ。殺し屋二人は見ててくれよ。きっと地道な鍛錬の素晴らしさが分かるから、さ。おっと、音無君はそのままで居てくれるかい?」
猫さんは早口で言うと、僕に近付き手をかざした。

「?魔法陣…………?」
少し眩しい光に目を細めながら下つまりベッドを見ると、魔法陣が浮かび上がっていた。
「不便なところ、その一。借り物だから魔法陣と詠唱が必要」と言う猫さんの足元にも同じような魔法陣が表れていた。そしてそのまま、猫さんはよく分からない呪文を詠唱する。

「むおお、ちょっとこの部屋危ないですだよ!気流子、この部屋を保護するですだ!」
「ええ……気流りん魔法嫌い…………」
「言ってる場合じゃないですだ!やってくれたらケーキバイキング奢るですだよ!!」
「ケーキ!?…………し、仕方ないなぁ!!」

気流子さんの扱いが上手い仙人さんがいた。気流子さんの胃袋を考えてバイキングを奢るところが更に素晴らしい。ケーキに釣られた気流子さんは、あっという間に部屋に魔力で出来た水を纏わせた。こっちもこっちで凄い。というか気流子さん普通に魔法使えばかなり強いんじゃ…………。

何て事を考えているうちに、体内の魔力がかき回されていくのを感じた。
「…………っ」
なんだこれ、滅茶苦茶気持ちが悪い。呼吸するのが辛くなってくる。
でも、同時に魔力が体の中から沸いてくるのを感じた。多分これが、スキルで魔力の絶対値を引き上げている状態なのだろう。
「…………不便なところ、その二。やられる側は辛いしやる側は大量に魔力を消費する……っ、ふう…………」
「おっと、大丈夫ですだか?」
詠唱を終えた猫さんはフラフラだった。それを慌てて仙人さんが支える。
詠唱が終わったからかさっきの気持ち悪さとか呼吸困難に陥りそうな感じは綺麗さっぱり無くなっていた。



…………。



…………!?



「あっ……ぐっ…………!?」

しかし体調は突然変異した。
「ああああああああっ!!」
身体が全体的に熱くて痛い。骨がぎしぎしと悲鳴を上げているような気すらする。これだったらさっきの気持ち悪さの方がまだマシだ。もう、身体を起こしていられない。目を開けているのも辛い。
そして、頭が割れそうになる程激しい痛みが走ると僕の意識は暗闇に飲み込まれていった。







猫神が突然倒れそうになったかと思うと、いきなり音無が苦しみだして意識を失った。しかし意識を失ってもまだ音無は苦しんでいる。
「不便なところ、その三。魔力補助は本人の魔力をいじりつつ自分の魔力を注いでその名の通り手助けするスキルだ」
チャイナ娘の肩を借りながら猫神は説明を始める。
「んん?猫さん、他人の魔力と自分の魔力は相成れないよね?」
「うん、そうだよ」
「じゃあ今、ワトソン君の中でワトソン君の魔力と猫さんの魔力が潰し合いをしてるの?」
「大正解だよ、気流ちゃん」
意外にも蛙女が話を進めた。
「ふふん、シリアルモードな気流りんは知的なのだよ小坂君!!」
…………最後のその一言が無ければ真面目で良かったのに。なんだよシリアルモードって。どんなモードだよ。
そして蛙女は何故俺に向かってドヤ顔をした。お前は猫神か。

「音無の周りだけ物凄い魔力が渦巻いてるですだ……流石に儂はこんなの体内に入れたくないですだ…………」
「いや仙人。これを君にやったら多分僕は死ぬ」
少し青ざめた顔のチャイナ娘に猫神が突っ込んだ。死ぬとか大袈裟じゃないかとか思ったが、よくよく考えれば多重人格で元からバカみたいな魔力持ってるんだから確かに危ないかもしれない。
魔力が潰し合いをするなら、相当の魔力を注がないとすぐ消されるだろうしな。

そこでなんとなくさっきから黙り込んでいる二人が気になり、後ろを振り返ってみた。
「…………」
「…………」
二人とも口を大きく開けた間抜け面で絶句していた。



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