はぁ……はぁッ……!」
私は人気のない町をただひたすらに走っていた。

―誰から?

「逃げないでください指揮官!!」
「いい加減帰りましょう指揮官!!」

―私を追い続ける二人から。
「わ、私の名前は指揮官なんかじゃありませんッ!!」
指揮官指揮官と私を呼ぶ二人にちょっとした抗議をしてみた。疲れただけだった。

「……いや、それ校長が生徒に名前を覚えてくれって言ってるような感じっすよ指揮官」
「その例えは伝わらないぞ涙目!?」
「そうか?怖目。ならば私はなんと表現したら良いのだ!?」
「指揮官はニックネームみたいなものだと言えばいいんだよ涙目」
「なるほどお前は頭がいいな怖目!!」
「涙目に実技面がいった分私には頭脳が来たようだな」

九十涙目(くとおなみだめ)と九十怖目(くとおおそれめ)。私を追い続ける二人だけれど……分かるようにお馬鹿だ。
九十家は月明家の分家に当たる筈なのだけれど一族全員抜けている感じだ。残念だと思う。同じ殺し屋としても、組織の仲間としても。

私は齢12の昼夜家の秘蔵っ子の片割れだ。同時に現在この世界の各地において革命を起こそうとかしているらしい組織の指揮官でもある。
割と私は有能だ。えっへん。
そんな私がお馬鹿な二人に追い回されているその理由は、組織の指揮官に飽きて組織から絶賛逃亡中だからだ。
私だって子供。
それに、私の双子のお姉ちゃんが年相応じゃなく大人っぽいのが悪い。息が詰まりそうになる。
お姉ちゃんは最近ピリピリしている。その理由は最近始めた『嘘誠院音無』を殺害するという任務が上手くいかないからだろう。
囚我先生の作品である『Alice』ちゃんを昨日仕向けて失敗したみたいだし。
月明家の方も仕向けた刺客が寝返ったみたいだし。
酷い有り様だな〜とか思うけど、私は協力なんかしたくないわけで。

組織が音無さんを殺害しようとしている理由……それは音無さんの兄に原因がある。

音無さんの兄、『嘘誠院狂偽』は魔力が生まれつき凄まじかった。そして天才だった。それが理由となり音無さんは心を閉ざしちゃったわけだけど。
そこまでなら良かったのに音無さんは狂偽さんを召喚獣にしてしまった。
元々凄まじい魔力だった狂偽さんは召喚獣化によって魔力が更にパワーアップしてしまった。そこに音無さんが召喚師になるなめに涙ぐましい努力をしてパワーアップ。狂偽さんに更に魔力を与えてしまった。
囚我先生によると召喚師と召喚獣は繋がっているため、召喚師の魔力が上がれば召喚獣の魔力もあがるらしい。

そんなこんなで力をつけた狂偽さんの今の戦闘力は地球を破壊できるレベルらしい。
まったく、ドラゴ○ボールじゃないのに。どこのサ○ヤ人ですか?と聞きたいところだけどスルーで。
組織は狂偽さんの暴走や召喚獣として縛られている状態から自我を持ち解放されることを恐れている。当たり前だ、下手すれば世界が滅びるんだから。
それで、組織は狂偽さんを消すことを考えた。
召喚獣を消すには召喚師を殺すしか無いだろう。そんな思考で音無さんは殺されることが確定した。

音無さんにとってははた迷惑な話だと思う。大人は勝手だ。
私からすれば音無さんの人生は一片の幸もなく、何事も報われない最悪の人生だと思う。お兄さんのせいで愛を失い、お兄さんのせいで人生が終わろうとする。踏んだり蹴ったりとはこのことなんじゃないかなと同情するくらいだ。
というか同情した。
音無さんを殺したくないと、任務を遂行したくないと心の底から思った。
だから逃走してたりしちゃってる。

「ああもう諦めてくださいっす指揮官!!」
「そうですよ!司令官に怒られるの私達なんですよ?」
司令官……つまりお姉ちゃんのことだ。お姉ちゃん怖いもんなぁ……。
「そんな事私は知ったこっちゃありませんよーッ!!『空間移動』《トリック・トリック》!!」
組織に戻りたくなかった私は魔法を発動させた。
空間魔法。それが私の能力…………

「みゃあッ!?」
「うぎゃッ!?」

二人は私がたった今動かしてそこに置いた落とし穴にハマった。
「お……落とし穴……。いつこんなものを用意したんっすか指揮官……」
「いざという時の為に暇つぶしで作っておいたんですっ☆」
「そんな時ばっかり子供みたいな……」
「だって私は子供ですもん」

それではお二人ともさようなら。私はそう言って自分を空間移動させた…………


「きゃんッ!?」
空間移動をして私が落ちた先はどこかの家だった。
「空から女の子が降ってきたなんてどこのラピ○タですか!?」
その家のベッドに寝ていた人が突然起き上がり突っ込みを入れた。無駄に機敏な動きだ。
私は人見知りをするタイプの人間だから、あまり顔を見れない。それでも頑張ってその人を見てみるとそれは知った顔だった。

「……嘘誠院……音無…………?」


私は昼夜空美。昼夜家の秘蔵っ子にして組織の指揮官。
それが、なんということでしょう。
組織から逃亡を図ったらどうやら殺害対象のお宅訪問をしてしまったようだ。



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