音無もヘタレも動けないでいるから、儂が語り部になるですだよ。 「ふぁー……」
猫神はマイペースだからゆっくり探している頃だろうですだ。 まさか小阪宅に屋上が存在するなんて知らないんだろうな。 まあ屋上へと繋がる階段や梯子なんてものはないからな。
儂は今日一日ここにいればいいだけですだ……あとは蛙が残りの粥を処分してくれれば………… 自然と欠伸が漏れる。
「待つだけっつーのも中々疲れるだよ……ふぁー……暇ですだ」
……こんなにものんびりした気分は、久し振りですだよ。嗚呼、空が青い。
「……にゃっほ、暁ちゃん」 「……仙人と呼ぶですだ」
伸びをしたまま後ろへ倒れこむと気流子が立っていた。儂は出会ったばかりのこいつ等に放った台詞を再び口にしてうっすらと笑ってみせた。 気流子は悪戯っぽく顔を歪ませて悪戯っぽくクルリと宙返りして(こいつは割とアクロバティックですだな)悪戯っぽく澄ました顔でわざとらしく笑ってみせた。 儂も同じように悪戯っぽく笑って見せた(宙返りはしていない)。
「にっしっし」 「うっしっし」
別の儂がこいつ達を裏切った時、こいつだけは誰かを責めるという感情を見せなかったですだ。 何も考えていないわけじゃないだろうが……猫神じゃないですだが、こいつの考えは読めないですだ。 多分シンプル過ぎるからですだなあ、儂にも負けず劣らずフリーダムですだ蛙は。
多勢なる人格が渦巻いている儂には、シンプルなこいつはわかりえない訳ですだ。色々考えたりとかしないですだか?理論とかそういうのは知らんですだよ。 考えるんじゃない。感じるんですだ!!……ボケの部類には入らないですだか?……そうだか……ボケっつーのも難しいだよ、です…………
「……はー……任務完了、しといたからね」
儂の隣に腰掛けながら仕事を終えたことを告げる蛙に少し違和感を感じた。 「……今日は静かですだな?」 「ちょ……仙人ちゃんってば私を何だと思ってるのか小一時間程問い詰めたいよ?」 「カエル」 「……っそ、それ……小阪君にも言われたよ……!!」 「うっしっし!そんな全身緑色な格好をしてるからですだよ!」
服装であだ名が決まるなんてそんな馬鹿な、とかなんとか言ってすね始める気流子を見てやっと自分が帰ってきたことを自覚する。 暖かいですだな、……家族というものは。 くつくつと笑ってしまう。 そんな思いに浸っている儂を見てだかどうだか、蛙がやけにまじめに儂に話かけてきた。
「血なんか繋がってなくたって……皆が想い合えるなら、家族になれるんだよ。仙人ちゃん」
まるで自分に言い聞かせるかの様にも聞こえたそれは、儂にはわかるようでわからなかった。
……ふうん……何か……色々見えてきたですだ。
「あ、因みに粥はどこに処分したですだ?」 「うん、内緒☆」 「いっぺん死ぬですだか?」 「冗談に聞こえないのが怖いよね」
HA-HA-HA-☆と陽気に笑いつつ、体を起こす 「お」と蛙もまた立ち上がり、立ちくらみによろけた儂に触れようとしたから儂はすかさず体をひねってかわした。
ふっふっふ…………
「触るな、ですだよ」 にこやかに拒絶反応。目の前の蛙は一瞬驚いたようだったが直ぐにうすら笑いを浮かべた。 「……何だ、気づいてました?」
突然殺気が放たれる。実力はわからない。
「当たり前ですだよ。蛙……少なくとも儂の知っている気流子はそんなにピリピリしてないですだ。……誰だ、お前」 儂も負けじと殺気を解放する
「やだなあ……私は戦う気なんて全くないんですよ……?嗚呼怖い怖い」 人を馬鹿にしたような笑いに胃がムカムカする。戦意がないなんて全くの嘘だ。
「黙るですだ……この大嘘吐きが」 「あらら……傷つくなあ……本当よ本当……ほおら……」
手を胸の前でぶんぶん振っていたかと思うと突然体の重心を後ろに傾け後ろに倒れこんだ。 ここは屋上。蛙の姿をしたそいつの後ろに地面は無い。つまりそいつは頭から地上に落下していったですだ。
「……っ!?おいおま……」
意味もわからず咄嗟のことにそいつを止めることも叶わず。 ただただ儂は地面に砕け散ったであろうそいつの姿を確認しに、そいつがさっきまで立っていた場所に走った。
死体なんて、見慣れているですだ。
苦ではなかったけど、その死体が家族の誰かのものだと考えたらそう簡単には下を直視できなかった。 でも、死体なんてどこにもなくて。聞こえたのは後ろからの笑い声。
「ふふ……!なかなか愉快なことをしていますね、這い蹲って一体何を?」 こちらを見ずにどこか虚空を見つめている気流子の姿をしたそいつ。
「……おまえ……幻術師ですだな?」
「違うわよ」 「……お前、」
本当に嘘つきですだな。そう言おうとした時
「仙人?そこにいるのかい?」 「!!」
猫神が下の階から儂の居所を確認してきた。むおお、どうするですだか……! 今返事したら無理やり屋上にあがってきそうですだ……!
「……?返事がない……って言っても心が読めるこちらからすれば仙人がそこにいることぐらいわかってるんだけどね?……お粥、食べちゃったのかい?」 誰があんなもn……げふんげふん食べられないことはないだろうですだが食べたいとは思わないですだ…………
……むうん!
「……すまんですだ!うまかったですだよ!音無にもちゃんと食わせといたから安心するだよ!」 ……人のこと嘘吐きだとか言えないですだな、儂も。
「そうかい?……あ、じゃあそっち行くよ」
「どうしてそうなったですだああああああああ」 「!?そっちに行ったら行けない何かでもあるのかい!?」
つい叫んでしまったですだげふんげふん。
「あ……いや、今こっちに来たら駄目ですだよ猫神!蛙がいるんですだ!」 間違ってはいないはず……ですだ。うん。
「なななななんだって!?ありがとう仙人!僕絶対そっちに行かないよ!ってゆうか行けないよ!……わわ悪いけどおおお粥の入った器は、あああああ洗っといてくれる、かいっ?それじゃ……!」 ……予想するに、凄い速さで1階に下りていったですだ。
「……そ、そんなに蛙が嫌いですだか……気流子や音無しから聞いてはいたですだが……ここまでとは……いやはや」
ふとさっきの幻術師のことを思い出し、振り返った。 「あ、そうだ。お前……む?」
振り返っても周囲を見渡しても、そいつはいなかったですだ。
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