状況が掴めない。 いきなりアリスさんが燃え上がり出したのだけれど、なにが起きた?某元テニスプレイヤーのように熱くなったのか?いや、熱くなりすぎだろう。そもそもそんな事は無いか。 いくら今の僕でも目の前の状況くらい分かる。
何故なら。
何故なら今、僕の目の前にはアリスさんを燃やした本人が居るのだから。
「まだ意識を手放すなですだ音無!!今意識を手放したら出血多量で死ぬですだよ!!」 そろそろ倒れてもおかしくはない僕に、仙人さんが真剣な顔で言った。 「……縁起でもないこと、言わないでくださいよ……仙人さん?」 倒れてもおかしくないというか倒れた。今力尽きた。多分仙人さんの顔を見て安心したのだろう。
今の仙人さんの顔は、あの日の狂気じみた表情ではなく真剣に僕を心配してくれている様子だった。
「どうして、助けにきたんですか?」
うわごとのように僕は言った。責めるような口調になっていないかと少し心配した。 「それは……「大丈夫か!?音無ィ!!…………チャイナ娘か?」…………」 仙人さんが何かを言おうとしたタイミングで、小坂君が出て来た。続いて気流子さんと猫さんも。全く……間が悪い。
「そんな事よりも音無その傷は大変だよ!とりあえず草……すりこんでみる?ハッ……すりこむ?音無の背中に……音無の生肌……ゴクリ」 「……変態君まで……!?」 「どうして変態呼ばわりされなきゃならないんだい!?」 登場早々発言が危うい葉折君まで居た。しかし葉折君は全身ボロボロで、僕なんかよりもまずは自分の心配をしてほしい。
「猫神……お主等……ごめんですだ。実はあの時の儂は儂じゃなかったんですだ……。儂は多重人格で……。許して貰えるとは思ってないですだ……でも……」 唐突に仙人さんが言った。今にも泣き出してしまいそうな顔で。 「多重人格……読めないわけだ。……いや、一応読めるには読めるんだけどね?」 見栄をはるように猫さんがまず言った。そんなに読めないとか思われたくないんですか猫さん。変なところプライド高くないですか? 「なにがともあれおか……「仙人ちゃんおかえりぃッ!!」…………」 気流子さんが空気を読むどころか破壊した。そこは猫さんがおかえりとか言って和解するところでしょうが。ほらもう猫さん黙っちゃったじゃないですか。 そんな気流子さんと言えば猫さんを気にもとめずに仙人さんに飛びついた。 「おぉう!?ちょ、気流子力が強いですだよ?」 「カエル女の飛びつきをものともしない……やっぱりチャイナ娘は色々おかしいだろ……」 「それは僕も同感かな」 気流子さんに飛びつかれても微動だにしない仙人さんについて小坂君と猫さんが驚愕した声で呟く。 仙人さんに介抱される形で倒れている僕はといえば、気流子さんに潰されるのではないかという恐怖に怯えていた。ある意味死よりも恐怖だ。
「ちょっとぉ……私を無視しないでくれる!?」 スルーされ続けたアリスさんがちょっとキレ気味に言った。 「音無に傷を負わせて……いいと思っているのかい?」 そんなアリスさんに、葉折君が言った。葉折君もキレ気味である。と、いうか葉折君がすごくかっこよく見えているんですが。誰このイケメン。イケメン爆発しろ。
「月明の……目的は同じでしょう?だから協力して……「ふざけるな」 協力を求めるアリスさんを葉折君はすっぱりと切り捨てた。 「音無に傷をつけて許されるわけないんだよ。身の程を知れ」 次の瞬間には、アリスさんが体中から植物を生やして地面と一体化していた。断末魔のような叫び声が聞こえる。この日、初めて葉折君の強さを知ったわけで。僕は葉折君の認識を改めた。
「……とりあえずお前ら二人の治療するぞ。チャイナ娘は音無を運んでくれ。カエル女と猫神は準備を頼む」 普段は微塵も見せなかった葉折君の一面に圧倒されながらも小坂君が場を仕切った。 葉折君に瞬殺されたアリスさんはオブジェと化している。本人曰わく、人形としての機能を植物によって停止させたらしい。僕の犠牲はなんだったのだろうか。
でも。 二人が帰ってきてくれて、みんなが受け入れてくれて良かったと心底思った。 それでもこれから尋問のように質問責めをされるのであろう二人を僕は容易に想像できるのだった。
「……ところで葉折君。葉折君はどうやって帰ってきたんですか?しかもそんなボロボロで」 「ん?僕?僕は仙人に助けて貰ってね。一族の僕を良く思っていない奴等にフルボッコにされてたところを助けてもらったよ」 「…………」
僕を運ぶ仙人さんのチートさ……力強さを感じながら、僕は意識を手放すことにした。
おやすみなさい。
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