完全に右腕は貰っただろう。僕はそう確信していた。 アリスさんは、なんと無防備にも右腕の内側をさらけ出してしまったのだ。ナイフの軌道は真っ直ぐアリスさんの右肘に伸びている。
やがて、嫌な感触がした。
ぶちぶちと音を立てながら筋肉が切れていき、一瞬込めた魔力の力で耐えきれなかった骨が折れていく。そんな手応えがあった。 「ッ!?」 アリスさんの右肘から下は、見事に外れて床に転がった。 咄嗟のことだからか自分の身体が一部消失したからかアリスさんは驚愕の表情を浮かべた。 一方でアリスさんの右腕を切り落とした僕自身も、その絵面には戸惑わずにはいられない。すごい量の血が出てるし…………ん?
「血じゃない……!?泥!?」
アリスさんの傷、それから切り落とされた右腕の切り口からは泥が流れ出ていた。これはどういうことだ……。 いや、分かっている。理解は出来ているけれど……。
「……貴方は……いや、貴方も『人形』なんですか?」 「あっちゃー……バレちゃった?そう。私も人形だよ。いや……正確に言えば死者の魂を器に入れて出来たもの、それが『Alice』なんだけどねーここらへんは組織の事情かなっ」 僕の問いに対しアリスさんは、右腕をくっつけながら言った。 しかし右腕はくっつかなかったようでアリスさんが手を離すと無惨にボトッと床に落ちた。 「ちぇー、戻らないかぁ……」 床に落ちた腕を残念そうに見て口をとがらせながらアリスさんは呟いた。
撃退法を考えながら、ナイフを投擲しアリスさんを壁に貼り付ける。人形なら手加減は要らないと思ったのだ。 「正しい判断だよ。私には物質的な核は無いからね。まず動きを止めなければ私は倒せない……ただしこの程度じゃ私は止まらない!」 アリスさんは、そう言って貼り付けられたら左腕を自らもぎ取って脱出し、窓の外へ出て行った。 部屋の中ではまだ小坂君達が湧き出る人形達を破壊している。僕はその元凶を止めるために窓の外へ飛び出していった。 そして、それが失敗だったと直ぐに後悔することとなる…………
「「「ひーっかかーったぁ!!袋の鼠ッ!!」」」 「!?」 外では全身を土で武装したアリスさんが四人ほど待ちかまえていた。四人は同時に僕に襲いかかる。 四方から飛びかかられているから逃げ場も無い訳で。 「―ッうおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」 僕は無傷を諦めて前方のアリスさんにタックルをかました。左腕にアリスさんのナイフが刺さる。痛い。痛いけれど、そんな事を気にせずに僕は鎖で残り三人を巻き込むように薙ぎ倒した。 「―自己犠牲……まさか其処までなんて……」 僕の左腕を刺したアリスさんが呻くように言う。僕の行動に相当戸惑っているようだ。 戸惑いは致命的なミスを生み出す。僕が優勢だと確信した。 「心が、お留守ですよッ!!」 刺された左腕を気にせずに鳩尾へ拳を叩き込む。が、僕が殴ったのはただの土の塊だった。 戻された……ッ!!アリスさん本人ではなく人形だった。つまり僕の後ろに居るのがアリスさんで僕の背中はがら空き…!! 「ざーんねんでしたッ!!」 「ッく……ぐああぁッ!!」 咄嗟に出現させた鎖も他二人が犠牲となり止められ、アリスさんのナイフは僕の背中を斬った。 痛い……痛いよりも熱い。呼吸が上手くできなくなり喘ぐように酸素を求める。血も足りないのかフラフラしてきた。立っているのがやっとだ。 「かっ……は……はぁ……はぁ……まだ、まだ鎖は残ってますよ……」 傷口を魔力で閉鎖しながら、ギリギリ残った鎖で後ろからアリスさんを貫く。 鎖はアリスさんの右下腹部をしっかり貫通した。 しかしアリスさんはピンピンしていた。 「お馬鹿さんだなぁ……私は人形なんだから、痛みなんてないしダメージにはならないんだよ?いやー、私が生身の人間じゃなくてごめんね?」 じゃあ、そろそろ死んで?とアリスさんがナイフを構えてじりじりと近付いてきた。 いつの間にか足を土で固められ、僕は動けない。きっと固められても動けなかったのだろうけれど。
ここで、僕がアリスさんを倒すために出来ること……普通の人なら無いかもしれないが、僕には一つある。 「これやったら僕もヤバいかなぁ……」 呟きながら、右目の眼帯に手をかける。 「一体何を……?」 頭にはてなマークを浮かべながらアリスさんは、動きを止めない。これから死ぬかもしれないと言うのに呑気な…………
きっとこれを今この傷だらけの僕がやれば死ぬだろう。本末転倒かもしれないけれど、僕は生き残ることに少しの希望をかけて―……
「『禁断ノ……「ギガントファイヤァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」 僕が決意を決めた時、突然目の前のアリスさんが炎に包まれた…………
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