「……アリスさん。何故僕を殺そうとするんですか?」
立ち上がって、ゆっくりと三人から距離を置く。今戦えるのは恐らく僕だけだ。相手が狙うのも僕だけ。
自分の身は自分で守る―……。

「ひゅー。かっちょいいねぇ、犠牲は自分だけで充分って感じ?自己犠牲精神は素敵だよ〜。自分の身を守れれば更にねッ!!」
僕の質問には答えず、アリスさんは僕めがけてナイフをダーツの要領で投擲した。
僕はそれを避けない。
「『鎖ノ罠』≪チェーン・トラップ≫……」
無数の鎖を出現させ、ナイフを絡み取った。
此処でヘタに動けば追撃や三人を巻き込むことに繋がる。だから僕はあまり動かずにずっと使わずにいた魔法で応戦する事にした。
「殺されるっていうのに随分冷静なんだねーッお姉さんなんだか虐めたくなっちゃった☆」
「答えてください。僕が殺される理由は何ですか?」
ふざけているような口振りのままアリスさんは次々とナイフを振りかざしてくる。僕はそれを鎖で受け止めるけれど、正直言ってヤバいことに今気づいた。
この方法で持久戦に持ち込まれたらやられるのは間違いなく僕だ。
魔力を酷使して魔術を維持し続けている僕に比べ、アリスさんはナイフが鎖に当たる、その一瞬にしか魔力を込めていない。明らかに魔力の消耗が早い僕が不利だ。
更にアリスさん、見た目女子高生の割には相当の手練れだ。一撃一撃が重すぎる。

「んー、丈夫だし割と魔力あるみたいだねぇー?かなり全力で叩いても崩れないなんてー、こうするしか無いよね?」
全力とか言いながら喋っているなんて……僕が地球を守る異星の戦士だったら燃えるところなのだろうけれど、僕は生憎少年マンガの暑苦しい主人公みたいな性格をしていない。さっきからアリスさんを撤退させる方法しか考えていない。

「ッ!?うぐ……ッ!!」
更に打撃が重くなった。と、同時に後ろから頭を思い切り殴られた。
―誰が?
―まだもう一人居たのか?
―一体何処から侵入を?

「不意打ちごめんなさぁいッ☆私、こう見えても人形遣いなんですよー☆」
テンションが上がってきたのかアリスさんの語尾に☆がつく。はっきり言ってウザい。一度殴り飛ばしたい。僕は別にフェミニストではないから気にせず殴れるはずだ。男として最低だろうか?いや、でもそこはフェミニズムの精神でいこうじゃないか。男女平等。やられる前に、やる!

アリスさんは自ら『人形遣い』と名乗った。きっと後ろにアリスさんの人形が居るのだろう。ならば、アリスさんもその人形もこの鎖の餌食になって貰おう。
「『連鎖する嵐』≪チェーン・ストーム≫」
僕とあまり距離が離れていないアリスさんとその人形に、この鎖の嵐から逃げる術は無いだろう。
鎖は僕を中心に渦を作り、雨のように降り注ぐ。手応えはあった。人形はかなり破壊出来ただろう。

「いったぁーい……。あーあ、ナイフがダメになっちゃったよ……」
そんな中でアリスさんは無傷だった。
そう、無傷。
あの"師匠"直伝の技を食らっておいて無傷とは……流石に自分の弱さにショックを受ける。

「音無君ッ!!この人今全部ナイフで受け流してた!!……ああ、もう邪魔だよッ!!」
少し落胆した僕を励ますように気流子さんが叫んだ。土で出来たデッサン人形みたいなものに水の塊をぶつけながら。
「貴方……まさかあの人形で三人を?」
自己犠牲精神は素晴らしいと言いながらしっかり他の三人を狙っているじゃねえか畜生!!
「ぼさっとしてんな音無ィ!!」
動きを見せないアリスさんと対峙していると、後ろで何かが弾けて液体が零れる音がした。
「―水魔法に水風船……素晴らしい観察眼だね……。分が悪いみたいだ」
アリスさんが忌々しそうに呻く。
どうやら土の人形は水に弱いらしい。弱点がデカすぎると思うんだけれど。どうでしょうか。
「溶けた人形を動かすのが嫌なんだよッ!!」
僕の心を読んだかのようにアリスさんはムキになって叫んだ。後ろを振り向けば泥が人型のようになって僕に襲いかかろうとしていて―……
「はいはいごめんよ?」
猫さんがそれを一瞬にして凍らせて動きを止めた。
「音無!人形は任せて早くその女をやれ!」
メスで器用に人形を壁に貼り付けながら小坂君が言った。
まったく……頼もしすぎるじゃあないか。
それじゃあ、少年マンガらしく"仲間"に背中を預けるとしましょうか。

「『回宙刃』≪ジャグリングナイフ≫……さて、アリスさん。そろそろ理由を話してくれませんか?」
そう言いながら僕はアリスさんの右肘を切り落とそうとナイフを振りかざした―……



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